英文契約書の単語・用語 「など、等」の表現について

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契約書翻訳の単語・用語について、今回は日本語の契約書や法律文で良くつかわれている「など、等」について、英文契約書との対比で考えてみました。

1. 日本語の「など、等」

日本語の「など、等」は、一義的には「一例を挙げ、あるいは、いくつか並べたものを総括して示し、それに限らず、ほかにも同種類のものがあるという意味を表す」言葉です。言い換えると、「一般に同種のものを並べた上でそのほかにも同種のものがあることを表す接尾語です。」

例:「この記入欄には、本人の氏名等が必要です」は、「この申請書には、本人の氏名、住所、登録印が必要です」の意味になります。

そのほか「など、等」は(引用句、または文を受けて)それが大体の内容であることを表す「……というようなことを」の意味を表すこともあります。(これら以外にも様々な意味があります)。

例:「xxx等の場合、xxxに連絡すること」

いずれの使い方も便利ですが、あいまいさが残ります。

2. 英語の場合の「など、等」

英語の場合でも似たような表現があります。例えば、「what have you」は文末に置かれて「などなど、等々」という意味になります。

(1)I borrowed American History, American Law, Introduction to Anglo-American Law and what have you from the library.(図書館でアメリカの歴史、アメリカ法、英米法入門などを借りました。)
(2)I’m very busy with work at home, my part-time job, and what have you.(家事やバイトやらで、すごく忙しい。)
(3)By the end of the month, we have to pay rent, electricity, gas, and what have you. (月末までに、家賃や電気代やガス代その他を払わなければならない。)
例文(1)を例にとると、借りた本をAmerican History, American Law, Introduction to Anglo-American Lawと個々に列挙して、他にもいくつか借りた本ある場合、ひとくくりにして「what have you」を使い、「など、等」を表現します。

すなわち、「任意のあるものを並べて、それ以外にも何かがある」ことを「what have you」を文末に置いて表現します。なを、訳語として暫定的に「など、等」としてあります。

ただし、英文契約書では、「what have you」のほか、例えば同様な意味を持つ「and so on」, 「and others」、「etc.」を使用した例は、まずほとんど見かけることはありません。理由の1つとしては、以下にあるように「英文契約書が基本的に厳格で網羅的な内容」から構成されていることが一因かと思われます。


3. 英文契約書の特徴-基本的に厳格で網羅的な内容

英文契約書の特徴の1つとして、厳格で網羅的な表現多く使われていること-すべての事柄について、あらゆる状況を想定し、例外の状況にも対応した文章とし、あいまいさを避けるために複数の同じ意味合いの言葉を使用し、さらに、一文にいろいろな条件・状況の設定を盛り込んでいる場合が多いことがあげられます。

これらは、英米法の口頭排除の原則(Parol Evidence Rule)、最終性条項または完全なる合意といわれる(Entire Agreement)における書面重視の考え方によるとされます。一般に、英文契約書において可能な限り、考えられるすべての事項につき文章化することを行います。そのため、表現が厳格で網羅的な内容になるため、1つの文、条文が長くなり、契約書全体も長いものになります。なを、契約書によっては、あえて抽象的な表現やあいまいさを残した表現に出会うこともあります。金銭にかかわる部分でよくみかけるようです。

4. 「など、等」に相当する英文契約書の表現の例
英文契約書では「など、等」に相当する表現として「including, but not limited to」、「including without limitation」があります。いずれも「~を含み、~に限定されない」という意味です。例えば、ある事柄に対して、相手方に対して責任を負わない、もしくは責任を負わせる、または当事者双方が責任を負わない場合等の規定について、適用する事例を列挙する場合に使われます。なを、相手方に対して責任を負わない-自己に対する免責を例にとれば、その条項に免責適用事例が「include」されるだけでは不十分で「but not limited to」を追加することで、適用事例を「include」しただけで、ある意味、制限的列挙を回避するといわれますが、「but not limited to」が入っていたとしても、実際には当該条項について紛争が生じることもあります。
Force Majeure means any event caused by occurrences beyond a party’s reasonable control, including, but not limited to, acts of God, fire or flood, earthquake, war, terrorism, labor dispute, pandemic, system malfunction, governmental regulations, policies or actions enacted or taken subsequent to execution of this Agreement, or any labor, telecommunications or other utility shortage, outage or curtailment.
上記の作成した例文は、「不可抗力条項で使用される例」です。この例では、不可抗力事由を列挙しながら、「including, but not limited to,」の構文を列挙した事由の前に置いて、列挙した事由に限定されないことを明示的に示しています。

5.  日本語の「など、等」に対応するその他の英語
その他、日本語の「など、等」に一義的(1つの意味として)に対応する英語は、他にも、and so forth、and so on、etc.、and othersなどがあります。ただし、これらについても使われるケースはまれです。例えば、「同種のものが複数ある場合を表すには、多くの場合、英単語の複数形を使います。」
ただし、日本語で作成された契約書を英文に翻訳する場合、「xxx等」となっていた場合、文脈的に「and so forth、and so on、etc.、and others」とすることがあり、または、「xxx等」の部分を「xxxs(複数形)」とすることもあります。

特に日本の法律文は、「等」が多用されています。参考までにほんの一部ですが法令の英訳例をみると以下のような体裁です。

事業の届出等(Notification of Business, etc.)(電気用品安全法

港湾運送事業等(The Port and Harbor Transportation Business, etc.)(港湾運送事業法

会社と誤認させる名称等の使用の禁止((No Use of Name, etc. which is Likely to be Mistaken for a Company)(会社法

中には、同種のものが複数ある場合を表すのに複数形を使用しているケースもありますが、上記のような体裁が大部分を占めるようです。

以上、日本語の契約書や法律文で使われる「など、等」について、英文契約書との違いの部分の概要について見てみました。

例文は契約書翻訳の観点から当方にて作成したものですが(法律文を除く)、例文を含め、ブログの内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。


参考図書:
The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)

研究社新英和辞典(研究社)
Japanese Law Translation
デジタル大辞泉(小学館)他

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