契約書翻訳

英文契約書の一般条項(その4)「契約の譲渡制限に関する条項」について

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今回は、英文契約書の一般条項、いわゆる「General Terms」の「契約の譲渡に関する条項」について簡単に触れてみました。一般条項については、以前、英文契約書の一般条項(その1:定義条項、期間)、(その2:(最終性条項)、(その3:修正条項)としてとりあげたことがあります。例文は、法律文を除き、当方で作成したものです。

英文契約書の一般条項、いわゆる「General Terms」は、ご存じのように、その契約で使われる用語の定義、契約上の地位、債権・債務の譲渡について、契約解除、損害賠償額の予定と免責、契約期間、契約の更新、守秘義務、準拠法、裁判管轄、その他契約全体の事柄、不随的事柄を記載した内容です。なを、一般条項の項目を列挙していますが、一般条項にどのような項目を入れるか、または独立した条項とするかは、特に、政府機関や特定の企業、団体等の内部規定で指定されている場合を除き、起草者の判断です。

1. 譲渡に対応する単語

英文契約書や法律文書で「譲渡」に対応する単語は、「transfer」、「assignment」、「alienation」、「conveyance(主に不動産)」、「negotiation(手形)」、「譲渡する」に対応する単語は、「assign」、「transfer」、「alienate」、「hand(make )over)」などがありますが、最も目にするのが、「assignment」、「assign」、「transfer」です。

ここで取り上げるのは、「契約の譲渡制限」につての例文です。相手方の同意なしの単に譲渡を制限するものから、契約を他者に譲渡した場合でも譲渡人は免責されない等を規定します(この部分は例文では省略)。

Supplier must not assign this Agreement in whole or in part without Purchaser’s prior written consent. (サプライヤーは、買主の事前の書面による承諾なしに、本契約のすべてまたは一部を譲渡することはできない。)

Supplier must not transfer the whole or in part of this Agreement to any third party without Purchaser’s prior written consent.(サプライヤーは、買主の事前の書面による同意なしに、本契約の全部または一部を第三者に譲渡してはならない)

  1. 譲渡の意味

「譲渡」の意味を調べてみると「権利、財産、法律上の地位等を他人に移転すること」とあります。「移転」に意味を調べると「移転=移動:人または物の位置などを変えること。法律で、権利の主体が一方から他方へ移ること。また、移すこと」とあります。和英辞典で「譲渡」を見ると最初に出てくるのが「transfer」、その次に、「assignment」等がありますが、「移転」を見ると「transfer:権利などの譲渡」とあります。

  1. 英文契約書に求められる、明確性と網羅性

以下の例文のように英文契約書の構文でassign or transferまたはassign and/or transferと表記されることがよくあります。このほかの言葉にも多く見られますが、同じ意味の文言をべつの単語で繰り返す理由の1つとしては、異なる地域と文化の間で締結される英文契約書に求められる、明確性と網羅性からです。

None of the parties under this Agreement may assign or transfer any of its or their rights or obligations under this Agreement. (いずれの当事者も、本契約に基づく当事者、もしくは各当事者の権利と責任を譲渡または移転することはできない。)

ここでは、assign or transfer、assign or transferを成句としてまとめて「譲渡」とだけ訳す場合もあります。

Neither Parties may assign or transfer whole or part of its or his rights or obligations under this Agreement, without the prior consent in writing of the other Party. (両当事者は、相手方の事前の書面による同意なしに、本契約に基づく、各々の権利もしくは義務のすべてもしくは一部を譲渡または移転することができない。)

The Contractor shall provide to the Client with all documents, information, and assistance requested for the assignment or conveyance to Client of all right, title, and interest in the services under this Agreement.(請負業者は、本契約に基づくサービスのすべての権利、権原、および利益をクライアントに移転または譲渡するために求められるすべての文書、情報、および支援をクライアントに提供するものとします。)

ちなみに、法令用語日英標準対訳辞書では、譲渡の意味では、原則的にtransfer、財産権一般の譲渡をassignmentとしています。その他、不動産譲渡:conveyance、遺言による財産譲渡:disposition、証券の譲渡:negotiationとされていますが、実際に目にする英文契約書では、個人的な経験として、英文契約書では「譲渡」、「移転」の意味では、これを1つの単語で表す場合「transfer」よりも「assignment」、「assign」のほうが多く使われている感があります。なを、証券の譲渡と不動産譲渡あたりは、それぞれnegotiationとconveyanceが使われているようです。

一般条項を最初にとりあげたのは、2015年7月から同年9月と大分時間が空いてしまいましたが、一般条項については不定期ですが、順次取り上げてゆきたいと思います。社会の変遷に連動して契約書の内容もそれに合わせて変化している部分もありますが、一般条項は、一般に定型的な内容が多く、覚えておくと便利です。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)
デジタル大辞泉(小学館)
研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
法律英単語ハンドブック(自由国民社)

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