英文契約書の用語、構文「 indemnify and hold someone harmless」 (その5)

投稿日 ブログTags:


1. 日本の契約書との違い

日本の契約書の違いについて 契約書翻訳の観点から概説します。

日本の契約書では、「本契約に定めなき事項については、甲乙別途協議してこれを定める」等の文章を良く見かけます。もちろん同様の表記が英文契約書でなされていることもあります。

以前にも触れたことがありますが、良く知られているように英文契約書は、書面重視です。その契約に関して、例外事項も含めてすべての事柄を可能な限り、規定し、文章化する傾向があります。

これは、1つには、英米法の「口頭証拠排除の原則(Parol Evidence Rule)」や「最終性条項あるいは完全合意条項(Entire Agreement)」の概念に見られる書面契約-書面の作成を成立の要件とする契約の考え方があるためと言われます。契約における当事者間の権利義務の関係が、かなり厳格に明確化される傾向があります。

契約書にある状況を記載する場合、同じことを書く場合でも、そこに使用されている文言や表見が異なると、その状況に関する権利・義務について、その意味があいまいになったり、明瞭になったり、厳格になったり、その範囲が限定されたり、あるいは、拡張されたり、といったことが起こります。

2. 具体例

売主「ABC Company (Seller)」と買主「XYZ Company (Purchaser)」間の売買契約における当事者間のある知的財産権について記載する場合の一例を作成してみます。

ABC Company shall not be responsible for any infringement regarding patent, utility model, trademark, copyright, or other intellectual property rights in the designated sales territory (hereinafter referred to as “Territory”).

この場合、売主「ABC Company」は、単に「Territory」=「販売区域」における知的財産権についての侵害に関する責任を負わないことになっています。

ところで、英文契約書で良くみかける文言「indemnify and hold harmless」があります。(「indemnify and hold someone harmless」の形式で使われます)辞書を見ると、ざっくりと「~から(人)を補償しかつ無害に保つとか、迷惑を一切かけない」等の意味が書かれています。「hold someone harmless」の部分が単独で使われる場合もあります。これも、「英文契約書における独特の用語、構文」の一例です。

上記の例に、この表現「indemnify and hold someone harmless」を使用してみると、

XYZ Company (買主) shall indemnify and hold ABC Company (売主) harmless against any infringement regarding patent, utility model, trademark, copyright, or other intellectual property rights in the designated sales territory (hereinafter referred to as “Territory”).

となり、買主「XYZ Company」による売主「ABC Company」に対する免責がより明確化され、売主「ABC Company」は、単に「Territory」=「販売区域」における知的財産権についての侵害に関する責任を負わないだけでなく、特に、hold ABC Company harmlessを使用したことで、買主「XYZ Company」は、売主「ABC Company」が知的財産権についての侵害に関して被った損失を補償する責任までも負担することが明文化されます。

これは、売主「ABC Company」の立場に立つ規定です。

当然、逆の場合、買主「XYZ Company」の立場に立った規定の仕方もあります。このあたりは、次で考えて行きたいと思います。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)、Trend (小
学館)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary、英文契約書の書き
方 (日経文庫)、 ビジネス法律英語辞典 (日経文庫)

Comments are closed.