英文契約書の用語、構文(その9)「Force Majeure」

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1.「force majeure

英文契約書で見受けられラテン語やフランス語などからの用語の中で、良く眼にするものの一つに、フランス語の「force majeure」があります。いわゆる「不可抗力」と訳されるもので、これには、戦争、暴動、ストライキ等に代表される「人的災害」と政府機関の命令等、および地震、台風、洪水、水害、竜巻等の「自然災害」を含みます。「フォースマジュール」として日本語にもなっています。

2.「Force Majeure」の定義

英文契約書の中では、当事者に責任のない(当事者の管理に帰せられない、当事者の支配の範囲を超えた)理由-すなわち上記の「不可抗力」事象により、契約の履行ができなくなった、または遅延した等の状況下において、不可抗力事象が発生した場合の相手方への通知義務、当事者に対する免責の範囲、免責方法等が、不可抗力の定義、不可抗力の期間等とともに、「Force Majeure」(または時として「Force Majeure Event」)というタイトルを持つ条項にこれらの内容が記載されています。(「Force Majeure」を定義条項の中に定義する場合もあります。以下に例文を作成してみました。)

「Force Majeure means any event caused by occurrences beyond a party’s reasonable control, including, but not limited to, acts of God, fire or flood, earthquake, war, terrorism, labor dispute, pandemic, system malfunction, governmental regulations, policies or actions enacted or taken subsequent to execution of this Agreement, or any labor, telecommunications or other utility shortage, outage or curtailment.」

(不可抗力とは、天災、火災もしくは洪水、地震、戦争、テロ、労働争議、流行病、システムの機能不良、本契約の締結後に制定された、もしくは講じられた政府の規制、方針もしくは法的措置、または労働、通信もしくは他のガス電気水道等の公共事業の供給不足、供給停止もしくは供給の削減を含み、これらに限定されない、当事者の合理的な管理能力を超えて発生した事象を意味する。)

(この例では、不可抗力事由を列挙しながら、「including, but not limited to,」の構文を列挙した事由の前に置いて、列挙した事由に限定されないことを明示的に示しています。)

「Force Majeure」という用語は、多くはまず、上記の不可抗力発生時の規定を記載した条項のタイトル(不可抗力条項=Force Majeure)として使われるようです(当然、用語「force majeure」が文中に記載されることもあります。)。

3.「Force Majeure」に相当する事象(不可抗力事由)

不可抗力条項において、何を以って不可抗力とするか(不可抗力事由)の定義は、多くの場合、上記の例文ように「人的災害」と政府機関の命令等および「自然災害」などの具体例を列挙しますが、その契約において不可抗力により生じた「不履行」、「履行遅延」、および「不可抗力の期間」等についての対応は、個別の契約により異なります。また個々の契約においては、上記の「不可抗力」事由の他に、その契約固有の「不可抗力」事由、例えば、工場が被った災害(爆発、火災等)、交通途絶、港湾封鎖、政治的・社会的混乱、国家の分離・独立、これらが金融機関の及ぼす影響等、その他諸々の事由をその契約に応じて記載します。また、不可抗力の発生に関する第三者機関の証明の提出義務などが追加されることがあります。

「不可抗力の期間」が不可抗力条項にあらかじめ規定して期間を超えて継続した場合の「契約解除」を行う場合は、その旨の規定を設けることが必要とされます。(不可抗力に起因する契約解除に関する規定を設けていない英文契約書も多くあります。)

例えば、次のような例文を作成してみました。「If the Force Majeure condition continues for 90 days or more, either party may terminate this agreement upon written notice to the other party」

(不可抗力の状態が90日以上継続する場合、いずれの当事者も相手方に対する書面の通知により、本契約を解除することができる。)

4.「Force Majeure」における免責

一般には、「不可抗力」の事態が発生しても、支払に関する債務は、免責されないことになっているようですが、実際に「不可抗力」の事態が発生した場合は、(場合により債務の履行が一定期間猶予されても)、支払がなされないこともあり、また、国ごとの債権に関する法律の違いなどから、当然、債務の不履行、履行遅延に関する紛争が生じることも多いとされます。また、支払に関する債務の免責以外にも、「不可抗力」の事態が発生した際の契約の履行義務に関する責任の範囲、その他を詳細に規定する場合もあります。(このあたりについては、専門書をご覧ください。)

以下に例文を作成してみました。

「Neither Party hereto shall be liable to the other party for failure to perform its obligations hereunder due to Force Majeure.」

(本契約のいずれの当事者も、不可抗力により、本契約に基づくその義務の不履行に対して、相手方に責任を負わせることはないものとする。)

「Neither party is responsible for failure to fulfill any non-monetary obligations due to events beyond his or her reasonable control」

(いずれの当事者も、その合理的管理の範囲を超えた事由に起因する非金銭的債務不履行に対する責任を負わない。)

(なを、英文契約書に不可抗力条項がない場合は、当事者間の話し合による解決のほか、ウィーン売買条約(日本では2009年8月発効)の適用が可能性としてあります(同条約の「損害賠償」、「免責」および「解除の効果」等-同条約の規定では、契約の不履行が不可抗力によることが証明できれば免責を受けられます。)。ただし、相手方の国が同条約に未加入であったり、契約に同条約を適用していない場合や、別途準拠法を定めている場合は、同条約は適用されません。)

また、ある事象が当事者の管理(または支配)範囲を超えた事由による場合でも、それらを不可抗力とはみなさない旨をあらかじめ定義する場合もあります。これについて以下に例文を作成してみました

「Neither economic downturn nor significant decline in demand for the Products manufactured by Party A shall be Force Majeure.」

(いかなる経済の悪化および当事者Aの製品の需要の深刻な低下も不可抗力としない。)

「Raw material or labor shortages shall not be considered as force majeure events.」

(原材料または労働力不足は、不可抗力事由としない。)

特に、「Neither economic~be Force Majeure.」の場合、例えば、代理店契約などで、販売数量、販売額等に関する契約上の義務がある場合など、このような取り決めは厳しいものがあります。

5.「Force Majeure」と「Act of God

「不可抗力=Force Majeure」という概念に関して、英語には、「Act of God」(辞書では、不可抗力、天災等の意味)がありますが、「Force Majeure」のように、不可抗力条項のタイトルとして使われることは、あまり見受けられず、タイトルを「Force Majeure=不可抗力条項」として、その条項の中で「天変地異」の1つとして「Act of God」を使用しているようです。理由としては、諸説あるようですが、世界には、様々な国々があり、特に宗教的配慮から「Act of God」よりも「Force Majeure」のほうが受け入れやすく、一般的に使用されるようになったという説もあるようです。“2.「Force Majeure」の定義”で作成した例文には、「including, but not limited to, acts of God, fire or flood, earthquake, ~」と「earthquake=地震」を入れましたが、経験的には、「earthquake」がない場合も多く、地震が起きた場合「acts of God=天災」の1つとして捉えるようです。

5.「Force Majeure」条項の重要性

英文契約書で「Force Majeure」条項を初めて目にしたときは、正直、漠然とした認識でした。どちらかと言えば、海外での紛争、災害、政治的な動きを想定していました。

しかし、東日本大震災により、多くの生産ラインが停止に追い込まれ、部品供給の途絶により、実際に世界規模で多くの製造業が影響を受けたことは記憶に新しい事実です。この時、各関係機関、法律事務所等に対する「Force Majeure」に関する問い合わせの件数が相当数にのぼったとのことです。現在、日本に限ってみても、例えば、地震についてだけでも、南海トラフ、首都直下型、はては富士山噴火等、可能性がとりざたされています。

その意味で、「Force Majeure」条項の重要性は増していると考えられますが、一方、日本の民法では、損害賠償について「債務者は不可抗力をもって抗弁することができない。」(第419条第3項)と定められています。英文契約書における「Force Majeure」または「Force Majeure Event」は、なかなかに多岐にわたる奥深い事柄のため、多面的に考察する必要があります。

 

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