契約書翻訳

英文契約書の関係代名詞(その3)

投稿日 ブログTags:

前回の「前置詞+関係代名詞」についての補足です。契約書の翻訳にかぎらず、例えば、「on which,in which」、「at which」などが場所を表す場合、「where」を使うことで代用できます。このときの「where」は、関係副詞と呼ばれるもので、文法の授業で出てきた記憶があるかもしれません。

特に、日本語から英語に翻訳する場合、前後の文脈だけで、その場所の状態を判断し、使う用語を確定する必要があります。そのとき「前置詞+関係代名詞」を使う必要がある場合、例えば「on which」,「in which」、「at which」のいずれを使うのか、慣れないうちは、一瞬とまどうこともあります(とくに原文があいまいな場合や状況が文脈だけではわかりにくい時など)。そこで活躍するのが、「where」です。

1.  関係副詞「where」の成り立ち

文法的な内容にはあまり触れませんが、一応、関係副詞「where」の成り立ちについて「in which」を例にとってみてみます。

This is the city  +  I was born in this city

This is the city in which I was born.

This is the city where I was born.

*基本的には、「前置詞+関係代名詞」に関係副詞「where」を使えるのは、それが場所を表す場合です。

「on which」の場合については、

There is a beautiful lawn.  +  Many flowerpots are placed on the lawn.

There is a beautiful lawn on which many flowerpots are placed.

→There is a beautiful lawn where many flowerpots are placed.

なを、ここで取り上げたon which」、「in which」、「at whichについては、例えば、時間を表す文章と合体させる場合は、当然、場所を表す「where」は使えません。

なを、「前置詞+関係代名詞」が「時」表す場合については、別の機会に見てみます。

2. 英文契約書での場所を表す「where」の使い方の例

The Buyer shall be entitled to visit the places in which the Products are manufactured and stored.(買主は、製品が製造され、保管されている場所を訪問する権利が与えられている)

この文章は、whereを使うと以下のようになります。

The Buyer shall be entitled to visit the places where the Products are manufactured and stored.

この文章は、分けると以下のようになります。

The Buyer shall be entitled to visit the places.  The Products are manufactured and stored in the places.

以下、同様に、

The seller shall designate the bank account in which the fee is paid.(売主は、手数料が支払われる銀行口座を指定する)

The seller shall designate the bank account where the fee is paid.

The entrustor shall designate the place in which the Project is performed.(委託者は、プロジェクトが実施される場所を指定する)

The entrustor shall designate the place where the Project is performed.

本来の趣旨とは違いますが、「on which」が場所を表す場合の適当な例が思い浮かばないので、とりあえず時間を表す例文にしてみました。

The board of directors shall record the date on which the name of each Shareholder was entered in the register of members. (取締役会は、各株主の氏名が会員登録簿に記載された日付を記録する)

このブログは、前回の「前置詞+関係代名詞」について補足です。

なを、「at which」については、別の機会にします(経験的には契約書ではあまり目にすることがなく、どちらかというと技術文書でよくみかけます。)

 

参考図書:

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

契約書翻訳

英文契約書の関係代名詞(その2)

投稿日 ブログ

契約書翻訳の視点からみた前回の「英文契約書の関係代名詞」の続きです。契約書翻訳の英訳・和訳を問わず関係代名詞を扱うことは避けて通れない部分です。前回書いたように、実際に英文契約書でみかける関係代名詞の多くは、「前置詞+関係代名詞」のパターンです。この場合、一般的に前置詞は目的格のwhich、whomのような関係代名詞の前に置かれます(thatを除く)。

一応ですが「前置詞+関係代名詞」の成り立ちを見てみます。

This is my brand-new smartphone.    I was telling you about it.

上記の2つの文を1つにまとめると、以下になります。

This is my brand-new smartphone about which I was telling you.

このとき「I was telling you about it」に「it」は、「about」の目的語(「~を」「~に」の「~」にあたる言葉。動詞の動作が及ぶ対象や動作の目的を示す言葉。この場合、aboutは、動詞ではありませんが、「about=~について」の意味で「~」にあたる部分(aboutが指し示す対象物)は「it」)

文法書の説明では、「関係代名詞に導かれる節で、関係代名詞が前置詞の目的語になるときは、前置詞は関係代名詞の前に置かれる」と解説されています。正直、学問的すぎてわかりづらいです。これに加えて、この関係代名詞は、目的格だ、所有格だと書かれていると余計面倒に感じます。このような文法的な事柄は大事なことですが、経験的には、とにかく関係代名詞のある文章に多く接して、読んで感覚的に理解するのもひとつの方法です(これが正解とは申しませんが)。

なを、前置詞が文末に置かれることもあります。いずれにしてもここでは、「前置詞+関係代名詞」の文法的な成り立ちではなく、具体的な使われ方を取り上げてみたいと思います。

1.「前置詞+関係代名詞」のパターン

「前置詞+関係代名詞」の例としては、以下のような様々なパターンがあります(これ以外にもあります)。

with which、from which、above which、after which、against which、among which、around which、at which、below which、between which、beyond which、by which、by means of which、during which、for which、from which、in which、into which(その中に)、of which(その)、on which、out of which、over which、to which、through which、under which、upon which等、様々なものがあります。

今回は、上記の中から、多くみかけるfrom which(*そこから)、in which(*その中に)、of which(*その)、on which(*その上に)を例にとります。

  1. 「前置詞+関係代名詞」の成り立ち

from which

 This is Monet’s masterpiece. + He was inspired from Monet’s masterpiece.

This is Monet’s masterpiece from which he was inspired.

She is trying to find an apartment. + Her office is within a short walking distance from an apartment.

She is trying to find an apartment from which her office is within a short walking distance.

in which

This is the place. + We lived in the place in my childhood.

This is the place in which we lived in my childhood.

I love spring. + Many beautiful flowers bloom in spring.

I love spring in which many beautiful flowers bloom.

of which

This is the lake. Water of the lake is very cold and clear.

This is the lake of which water is very cold and clear.

There are a lot of words. + I don’t know the meaning of those words.

There are a lot of words of which I don’t know the meaning.

on which

The water surface inside the reef is calm. + I floated a boat on it.

The water surface inside the reef is calm on which I floated a boat

It was said that the country on which the sun never sets.

*from which(そこから)、in which(その中に)、of which(その)、on which(その上に)について、()内に一応の暫定訳は付けましたが、「前置詞+関係代名詞」は、文章の一部であり、実際には前後の文脈により、適切な訳語が必要とされるので、上記の暫定訳が当てはまらない場合も多く、これらの暫定訳はあくまで参考程度です

3. 英文契約書の例

英文契約書でみかける「前置詞+関係代名詞」の例文を作ってみました。

This Agreement may be executed in several counterparts, all of which will constitute one agreement. (本契約は、複数の正副本を作成することができる。これらのすべては、1個の契約を構成する)

The Buyer shall return to the product to the shop from which the Buyer acquired it within thirty (30) day after the purchase thereof if he or she desires to return the purchased product. (購入者が、購入した製品の返品を望む場合、購入後30日以内に製品を購入した店舗に製品を返品する)

The shareholder registry shall record the date on which the name of each Shareholder was entered in it and the date on which he or she ceased to the Shareholder. (株主名簿には、各株主の氏名が記載された日付と、株主が辞任した日付を記録する)

The entruster shall notify the trustee of the manner in which the equipment is used prior to the commencement of the Service. (委託者は、役務を開始する前に機器の使用方法を受託者に通知する)

「前置詞+関係代名詞」について、ざっと見てきました。文法的な部分にはできるだけ立ち入らないようにしました。関係代名詞については、上記でとりあげたほかに、「who」、「whose」とか「that」や、例えば、場所を表すもの、例えば「on which」、「in which」などは、場合により「where」を使って表すこともできます。次回は、このあたりについてみてみます。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

契約書翻訳

英文契約書の関係代名詞(その1)

投稿日 ブログTags:

契約書翻訳の視点にかかわらず、当然のことながら英文契約書にも関係代名詞は使われています。ただし、経験的には、その使用頻度はそれほど多いという印象は受けません。むしろ一般的な英文のほうが多く遭遇します(いずれもあくまで個人的な印象です)。英文契約書を和訳するにせよ、日本語でかかれた契約書を英文に翻訳するにせよ、関係代名詞を扱うことは避けて通れない部分です。

一般的に関係代名詞が得意とか、好きとかという話はあまり聞いたことがありません。理由のひとつとしては、日本語には関係代名詞に相当する言葉が存在しないといこともあるようです。

関係代名詞について書かれた入門書は多くのものが世に送り出されていますが、ここでは、契約書翻訳の観点からみてゆきます。とはいっても、ここでは契約書での使われ方云々の前に、まずは関係代名詞の成り立ちを振り返ってみたいと思います。

1.  関係代名詞の成り立ち

2つの文章を、who、which、thatやwhatを使い1つの文章にするため使われます。「英語の2つの文章を1つにまとめるための道具的なもの」としてとらえると良いかもしれません。教科書にでてくる関係代名詞の種類とか格(主格、目的格等)についての文法的解説は省略します。

「I like this bicycle.」、「My mother bought me a bicycle.」という2つの文を、関係代名詞を使って一つの文章にすると「I like this bicycle that my mother bought me.」となります。

関係代名詞を「英語の2つの文章を1つにまとめるための道具的なもの」といいましたが、ほとんどの場合、関係代名詞を使う必要がない場合の方が、関係代名詞を使う必要がある場合より多いのが現実です。簡単に言うと、学校で習ったように「英語は1つの文章中に動詞は1つ」という原則があります。上記の文章、「I like this bicycle that my mother bought me.」では、「that」以下は、どんな自転車なのかを形容詞的に表現しています。

他の例では、「He goes his house to eat lunch」という文章の場合、「He goes his house」「He eats lunch」という2つの文章に分けることもできます。彼が行う行為「goes」と「eat」が2つあるため(つまり、動詞が2つ)、上記の原則を踏まえ、動詞「eat」の部分を不定詞の「to eat」にしてつなげています。つまり、これで、動詞が1つになります。

内容がそれましたが、英文契約書でみかける関係代名詞の例を作成した例文を通してみてみます。

2. 契約書に出てくる関係代名詞の例

The System may only be used on or in relation to Products which conform to in the Specifications. (システムは、仕様に準拠する製品でのみ使用できる)

This cost shall be categorized in acquisition costs, which are reported to investors based on the annual financial report. (この費用は、年次財務報告に基づいて投資家に報告される買収費用に分類される)

Either party may seek injunctive relief or other equitable remedies against any breach of this Agreement, in addition to any other legal remedies which may be available. (いずれの当事者も、有効なその他の法的救済に加えて、本契約の違反に対する差し止めによる救済またはその他の衡平法上の救済を求めことができる)

If any dispute arises in the course of the performance of this Agreement, either party shall immediately give a written notice to the other party, which must include the reasons for the dispute. (本契約の履行中に紛争が発生した場合、いずれかの当事者は、紛争の理由を記載した書面による通知を直ちに相手方に通知する)

以上は、英文契約書で使われる場合の関係代名詞の例文ですが、上記の例よりも、実際には、英文契約書では「前置詞+関係代名詞」のパターンが多く見られます。

例えば、In no event shall Buyer’s liability under this Agreement exceed the purchase price of the Product sold hereunder with respect to which losses or damages are claimed.(いかなる場合も、本契約に基づく売主の責任は、請求された損失もしくは損害賠償に関連して、本契約に基づき販売された製品の購入価格を超えない)

関係代名詞自体が日本語にないため、「前置詞+関係代名詞」はなじみが薄いという方々もおられるようです。「前置詞+関係代名詞」の説明と「契約書に出てくる前置詞+関係代名詞の例」については、別の機会にあらためて見てゆきます。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

契約書翻訳

英文契約書の会計用語 (その1)

投稿日 ブログTags:

英文契約書には、会計(Accounting)に関する用語が記載されていることがあります。それ自体が専門分野である会計に関する用語は、当然のことながらその数は非常に多く、多岐にわたります。それら中でも、英文契約書や会社定款等で最近みかけた用語のごく一部を取り上げてみました。日本語の訳語については、翻訳に際して一般に良く使われる訳語を参照しましたが、ここに記載した以外のものもあります。また、同様に英文に関しても同じ用語でも別の表現が使われる言葉もあります。用語の使用例として参考に一部の用語に、英文契約書翻訳の視点から例文を作成しました。なを、用語それに自体の意味等については、英文会計に関する専門書等を参照してください。

Accountant 会計士、経理担当者
Independent Accountant(独立会計士)Public Accountant(公認会計士)

Professional Accountant(専門会計士、 職業会計士)

これら3つはいずれも会計事務所の会計士。

Private Accountant(専属会計士、私的会計士:いずれも企業内に所属する会計士)

Accounting entity 会計主体
Accounting information 会計情報
Accounting firm 会計事務所、監査法人:auditing boards、audit corporation、auditing corporation
Account Name 口座名
Accounting process 会計作業、会計処理
Accounting report 会計報告書
Accounting standards 会計基準
Accounting systems 会計システム
Annual report 年次報告書
Asset 資産 cf. 負債:Liabilities、debt
Audit cost 監査費用
Audit report 監査報告書
Auditing 監査
Auditor 監査人    Independent auditors (独立監査人)

Accounting audits shall be conducted by an accounting firm designated by a fair and impartial third-party committee.(会計監査は、公正かつ公平な第三者委員会により指定された会計事務所により実施される)

Audit shall be conducted in accordance with the audit plan.(監査は、監査計画に従い行われる)

Bank account 銀行口座
Bookkeeping 簿記
Book value 帳簿価格
Buy or make 内外製選択:Internal processing(社内加工)かOutsideprocessing (外注加工)かの選択
Budgeting 予算編成,予算管理
Certified public accountants   (CPA: 公認会計士) Certified public accountants   (CPA: 公認会計士)
Claim of creditor 債権者の請求権
Cost accounting 原価計算
Credit grantor 信用貸付人
Credit limit 貸付限度額
Credit rating 信用評価
Chart of accounts 勘定科目 Chart of accounts(勘定科目表)
Consolidated entity 連結主体
Cost analysis 原価分析
Cost center 原価部門
Double-entry 複式簿記:bookkeeping by double entry、bookkeeping

Payments shall be made by electronic cash transfer to the Seller’s bank account free from additional charges except normal bank wiring charges. (支払いは、通常の銀行電信振込み手数料を除き、追加料金なしに売主の銀行口座に、現金電信振り替えで行なわれる)

Earning capacity 収益力
External reporting 外部報告会計
Financial accounting 財務会計
Financial interest 金銭的利害
Financial information 財務情報
Financial planning 財務計画
Financial budget 財務予算

The financial budget in this year signifies our long-term commitment to the development of this market for the next decade. (本年の財務予算は、今後10年間のこの市場の発展に対する私たちの長期的な取り組みを表します。)

General accounting  一般会計
Generally accepted accounting principles GAAP: ―般に認められた会計原則

The consolidated balance sheets and the related consolidated statements of operations, and cash flows present fairly must be in accordance with the generally accepted accounting principles in the United States of America.(連結貸借対照表および関連する連結損益計算書、およびキャッシュフローは、アメリカ合衆国で一般に認められている会計原則に従い作成する必要がある)

Internal auditing 内部監査
Internal auditor 内部監査人
Internal reporting 内部報告会計
Interpreting financial information 財務情報の解釈
Inventory turnovers 在庫回転数
Income tax returns 所得税申告(書)
Legal entity 法的主体、法人、事業者
Liquidity 流動性
Liabilities 負債
Internal auditing 内部監査
Managerial accounting 管理者会計
Management accounting 管理会計
Operating results 経営成績、営業成績
Operating entity 運営主体
Open account 口座決済残高

The operating results for quarter in this year may be considered indicative of results for any future period.(今年の四半期の経営成績は、将来の期間の業績を示すものと見なされる可能性がある)

Payback period 資金回収期間
Payables 債務
Partnership パートナーシップ
Private industry 私企業
Professional service 専門サービス
Production process 生産過程

Nothing in this Agreement shall be deemed to create a partnership, joint venture or other relationship other than a seller – customer relationship.(本契約のいかなる規定も、パートナーシップ、ジョイント・ベンチャー、または、売主と顧客の関係以外のその他の関係を構築しない。)

Product cost 製品原価
Profitability 収益性
Profit planning 利益計画
Promissory note 約束手形
Product cost 製品原価
Profitability 収益性
Proprietor 企業主
Publicly-owned company 公開会社
Revenue 収益
Receivables 債権 cf.  Payables(債務)
Single proprietorship 個人企業:proprietorship; private industry; private enterprise
Solvency 支払能力
Tax accounting 税務会計
Tax avoidance 合法的な租税回避、納税回避、節税、cf.  tax evasion(脱税)
Taxable income 課税所得
Tax returns 税務申告書
Tax services 税務
Title of accounts 勘定科目:account、account name、account title、account headings
Trade notes receivable 受取手形 cf. Trade notes payable(支払手形)

The Contractor shall file all Tax Returns to be required to file in timely manner.

(請負業者は、適時に提出する必要があるすべての納税申告書を提出する)

The company whose sole business purposes is the tax avoidance shall be prohibited by the laws and ordinances. (租税回避を唯一の事業目的とする会社は、法令により禁止されている)

会計用語は、英文契約書の翻訳にかかわる場合に避けて通れない分野です。冒頭でふれたように専門分野である会計に関する用語は極めて多く、その中での知っておくと便利な用語を少しずつ取り上げてゆきます(不定期ですが)。なを、財務諸表(Financial statements)の勘定科目については触れませんが、とりあえず、Receivable(受け取る)が付いた科目は債権で、Payable(支払う)がついた科目は債務とお覚えておくと良いかもしれません。

例:Account receivable(売掛金)、Account payable(買掛金)

本ブログの内容を参考にされる場合、ご自身の責任でお願いします。

参考図書:

ランダムハウス英和大辞典

法律英単語 自由国民社

英文会計実務 日本経済新聞出版社

英文会計入門 日経文庫

英文財務諸表の知識 日経文庫他

英文契約書の単語・用語 「~元」と「~主」の表現について

投稿日 ブログ

前回、「~先」についての英語表現をとりあげてみましたが、今回は、「~先」と対をなす「~元」の英語表現とこれも良く使われる「~主」の英語表現について見てみます。契約書の翻訳などでも、日本語の契約書を英文契約書に訳すとき、よく使われ、時として頭を悩ませることある言葉です。今回、例文はありません。

1.  「~元」の英語表現について

(a)「元」の日本語の意味

まずは、「元」の日本語の意味から見てみます。「~元」という言葉は、「~先」と同様に日常的に使われている言葉です。また、「~先」に比べると「~元」に対応する英単語は、辞書にもある程度記載されていますが、ある単語の訳語を知りたくて辞書を調べてその単語についての記載がない経験もそれなりにあります。また単語によっては定訳がないものもあります。

日本語の「~元」の「元」の部分にあたる意味についは、国語辞典を見ると「元」には多くの意味がありますが、主な意味としては、「ものごとのもと」、「根本」、「はじめ」等があります。

元(読み)げん

精選版 日本国語大辞典「元」の解説では、

名詞

物事の根本、はじめ。もと。

デジタル大辞泉「元」の解説

・物事のもと。根本。「元気・元素/還元・根元・復元」

・はじめ。「元始」

その他の意味については割愛しますが、元の意味を図示すると以下の様になります。

「元」➡➡➡➡➡➡➡➡

                           「元」があって、ある方向にそれが向かっている表現になります。

英語にすると「originate」の様に、(ここから)始まる。(ここに)源を発する。(ここから)起きる。の意になります。日本語の「要求元」の英語「requestorを例にとると、ここから要求が発生した。ここから要求が出された。のようになります。つまり、要求が発生した「元」となります。

例をあげてみます。 「請求元」とう言葉があります。英語は、「biller」になります。これはbill(こ場合の意味は「請求書」)が発生した元で、請求元=billerとなります。

日本語の「元」は、英語では「originate」です。名詞は、「origin」、形容詞では、「original」、副詞では「originally」(〔初めから〕from the outset [beginning])共々、「元々」に当たる言葉です。

「元」➡➡➡➡➡➡➡➡

(b)「元」に対応する英語の意味

すでに述べたように、「元」の英語の意味は、基本的に「originate:源を発する、起こる、始まる」です。名詞は、「origin」、形容詞は、「original」、副詞は「originally」(〔初めから〕from the outset [beginning])共々、「元々」に当たる言葉です。

日本語の「~元」に対応する英語の一部には、例えば以下のものがあります。

要求元:requestor

出火元:fire breakout source

製造元:maker, manufacture

制作元:maker

仲介元:mediator

出版元(出版会社):publishing company、publisher、publishing house、publishing firm、publisher、newspaper publisher

供給元:supply source

依頼元:client、requestor

版元:the publisher of a book)

映画の配給元:a distributor of movies

製造元:the manufacturer; the maker

2.「~主」の英語表現

日本語の「~元」と同じような形式の表現に「~主」があります。これらの中には 「~元」という表現ではありませんが、「~元」の表現に置き換えられる言葉または組み合わせもあります。例えば、「依頼主= client、requestor」は、上記の「依頼元=client、requestor」のようにと置き換えられます。ただし、上記の図のような流れの意味を持つものもありますが、例えば、「貸主」に対する「借主」のような場合もあります。

日本語の「~主」に対応する英語の一部は、例えば以下のものがあります。

送り主:sender

荷主:consigner, shipper

持ち主:owner

売主:seller

買主:buyer, purchaser

家主:landlord、owner of house

店主:shopkeeper、storekeeper, owner of shop

*買主:landlord、creditor、 lessor、

*借主:borrower, debitor、debtor, leaseholder, lessee、renter、tenant

*借りる対象により使用する言葉は違います。

前回とりあげた日本語の「~先」、今回の「~元」、「~主」は、ある動作を行う主体の後に「先」、「元」、「主」という言葉を足して、1つの意味を作り上げるという便利な言葉です。

国語学者ではないので、確たる証明があるわけではありませんが、私見として、これらの言葉は多くの場合日本語の語用、使い回しからきていると思われます。これらの日本語を英語に訳す場合、前回取り上げた日本語の「~先」の英語表現と同じように、「~元」、「~主」に本来対応する言葉に置き換えたり、場合により、そのことを説明する新たな言葉を作ったりする必要もあります。

例文に訳文が付いている場合、それらの訳文は暫定訳(法律文を除く)です。
本ブログの内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。

弊社では、豊富な経験と知識に基づき原文に忠実かつ適格な翻訳を適正価格でお届けします。英日翻訳、日英翻訳のいずれにも対応しております。お客様が行ったAI翻訳の校正も承っております。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

精選版 日本国語大辞典(小学館)

デジタル大辞泉小学館)

英文契約書の用語・単語  日本語の「~先」の表現について(その1)

投稿日 ブログTags:

契約書翻訳に限らず特に日本語から英語への翻訳では、日本語に「~先」という言葉が良く使われています。契約書に限らず、「~先」という言葉は、日常でも何気なく使われている、便利な言葉です。ビジネスでも、例えば、「得意先」、「売り先」、「相手先」、「仕入れ先」など、「~先」という言葉が出てきます。翻訳では、この日本語で多く使われる言葉、「~先」を英語に置き換きかえるわけですが、当然ですが、「~」に相当する英単語を置いて、それに続く部分に「先」相当する英単語を置いてというわけにはいきませんが、言葉によっては「ee」を使い、「~先」に対応することができます。例えば、動詞に-erをつけると「〜する人」の意味になり、-eeをつけると「〜される人(~の相手先)」の意味になります。ただし、これがすべてにあてはまるわけではありません。多くの場合、それぞれの「~先」を本来対応する言葉に置き換えたり、場合により、そのことを説明する新たな言葉を作ったりする必要もあります。「~先」という言葉は、多いのでいくつかの言葉をピックアップして、作成した例文(法律文を除く)を通して英文契約書翻訳の観点から見てゆきます。

1. 「~先」の「~」と「先」が対応するaddressを使う表現

以下の例では、単純に「~先」に当たる部分をaddress、それに準ずる言葉を足すこと

とで置き換え可能です。では、addressの語源を見ていきます。

接頭辞

ad-(a-,ac-,af-,ag-,al-,ap-,as-,at-)1.「…に向かって」「…へ」の意。移動・方向・変化などを表す。(c,f,g,k,l,p,q,s,tの前でac-,af-,ag-,ac-,al-,ap-,ac-,as-に置き換わる。) 2.…の近くで

接尾辞

-ess        形容詞から抽象名詞を造る

上記のように、「方向を表し、~の近くで」と言うように、「~先」の「先」の部分に相当する言葉です。文字通り「住所」となっていますから、以下の様な使い方があります。

宛先(address, addresssee(名宛人))、移転先(new address, new location site)、送り先(receiver’s address, destination)、連絡先(contact address)、送付先(receiver’s address, adressee)、転居先(new address)、転送先(forwarding address)、届け先(addressee)、納品先、届け先(place of delivery, address of delivery)、発送先(address)、引越先(new address)。

address以外の「~先」とついた言葉に対応する英単語をいくつかピックアップしてみました。

2. 「~先」とついた言葉に対応する英単語

(a) 上記のように、「ee」を付ける場合

委託先:trustee、consignee、contractor     事業の委託先(contractor of the business,
(consignee of business)

献金先:donee(受贈者、donerの対語)

支払先:payee

インタビュー先:interviewee(面接を受ける人)

身元照会先:referee

(b) 「ee」を付けない場合で対応する言葉がある場合

相手先:the other party

売り込み先:a potential buyer、a potential purchaser

運用先:an investment target

融資先:borrower, loan customer, loan destination, recipient of a loan

外国人労働者受け入れ先:host (hosting body) for foreign workers

勤務先(勤め先):one’s place of employment (work)

仕入れ先:supplier

取材先:news source

出荷先、配達先、納品先:place of delivery, destination

注文先:orderer(注文した人)      receipent of an order(注文を受けた人)

提携先:business partner

得意先:good customer

取引先:customer, business connection

身元照会先、信用照会先、問い合わせ先、紹介先:reference, referee

契約書、なかでもライセンス契約書等に使われているの場合の例では、licenser(ライセンスを与える人)のライセンスを与えた先をlicensee(ライセンス権の供与先-ライセンスを受けた人-)、franchiser(フランチャイズ権を与える人)のフランチャイズ権を与えた先をfranchisee(フランチャイズ権の供与先-フランチャイズの加盟者)等があります。

上記の例は、ほんの一部の例です。なを、言葉によっては、上記以外にも別の訳し方があります。文脈的に一見あまり関係のない言葉が使われることもあります。ここでは、「融資先」を例にとってみます。

融資先に対応する英単語には、borrower, loan customer, loan destination, recipient of a loan等があります。字義どおり、「direction of financing」という訳しかたもあるようですが、あまり見た経験がありません。通常、状況、文脈等により日本語の「融資先」に対応する言葉が違ってきます。いくつかの例を挙げてみます。辞書は頼りなる資料ですが、実際には辞書どおり、または字義通りの言葉が使われていないことがあります。

政府系金融機関は、優良融資先に対して低利での融資を行う。(The public-sector financial institutions are lending to low-risk customers at cut-price rates.)

融資先企業 の成長発展を支援するため、経営課題解決のためのコンサルティングに努めております。(In order to support the growth and development of the borrower, we will provide consultation support to help resolve management issues.)

上記の例の場合、「融資先」を「customer」、「borrower」としています。文脈に応じて、日本語の「融資先」を他の言葉に訳しています。

日本語の「~先」の表現を英語に置き換えるとどうなるか、または英文を日本語に翻訳する場合、「~先」と訳すことがある場合の一例を概観してみました。
実務では、日本語の「~先」に相当する言葉は、辞書にはほとんど載っていないことが多く、その言葉の持つ意味を、文脈を通して、または文脈と対比させて新たに作るという作業が求められます。その意味で、日本語を英語に訳す場合、指標となるのは、和英辞典ではなく、国語辞典、法律用語辞典です。日本語の「~先」の表現を英語に置き換えるというテーマは、まだまだ面白い側面があり、また取り上げてみたいと思います。

例文に訳文が付いている場合、それらの訳文は暫定訳です。
本ブログの内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。お客様の作成したAI翻訳による翻訳文を原文と対比して校正するポストエディットも承っております。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

さまざまな契約:Evergreen Contract(自動更新契約)について

投稿日 ブログTags:

今まで、実務においてかなりの種類と量の英文契約書の翻訳を行ってきましたが、契約書には様々な名称の契約があります。それらを少しずつ見てみたいと思います。

今回取り上げるのは、英契約書のEvergreen Contract(自動更新契約)です。契約書翻訳の視点から概説します。

  1. Evergreen Contractとは

Evergreen Contractとは、日本語で言うと「自動更新契約」の意。evergreenの本来の意味は、常緑樹、常緑植物の意味です。常に青々とした木々・植物から転じて「いつまでも衰えない、何時までも新鮮な」という意味に使われています。

さて、「Evergreen Contract」は、「いつまでも衰えない、何時までも新鮮な」である契約なのでしょうか?evergreen contractの意味を調べると「自動更新契約」となっています。

「Evergreen Contract」だから木々・植物を扱う「植栽管理契約」のように思われますが、これは、契約期間に関する条項中の「自動的に更新」に相当する部分です。大概の場合、契約を締結させてあげる立場の当事者(当事者間の力関係が上)は、自動更新に関するオプション‐「更新の時期」、「契約を解除しない場合の自動更新の可能性」、「オプションを行使しない場合の契約の終了」、「当事者の更新権限の有無」、「自動更新のデッドライン(何か月前までに自動更新の延長の申し入れを行う)」、「更新できる契約期間の長さ」等に関して、契約の締結を希望する側の当事者(当事者間の力関係が下)に対して優位な立場にあります。

もちろん、両当事者間で新しく契約書を起草する場合、自動更新のオプションを両当事者の間で決める場合もあります。しかし多くの場合は、契約を締結させてあげる立場の当事者がすでに決めている自動更新条項に従うことが多いようです。この部分の例を以下に作成した例文で見てみます。

2.自動更新条項の例

Term of this Agreement shall be one (1) year from the effective date of this Agreement and it shall be automatically extended for successive period of one (1) year, unless either party shall have otherwise notified to other party.

(本契約の期間は、本契約の発効日より満一ケ年とし、いずれかの当事者が相手方に別段に通知する場合を除き、本契約は、1年の連続期間に自動的に延長されるものとする。)

If neither party one (1) month before the end of the period gives a written notice of termination to the other party, the term of the agreement shall be extended for a new one-year period.

(期間の終了する1ヶ月前に、いずれの当事者も、相手方に対し書面による解除通知を提供しない場合、本契約の期間は、新たに1年間の期間延長されるものとする。)

上記の条文を入れることにより、契約は、いずれかの当事者が解除したい旨の通知を行わない限り、契約の期間が延長され、evergreen contractとなります。緑(良好な契約関係)のままでいつまでも変わらない「常緑樹」のように、契約書が、Evergreenである契約の関係を築きたいものです。それには、当事者双方が契約内容を順守して、契約を大切に履行して行こうという日々の取組も必要になります。

ちなみに、常緑樹は、英語では、「evergreen tree」と言いますが、エバーグリーンという言葉は、結構普段使われているなじみがある言葉です。では、落葉樹はと言うと、「deciduous tree」ということになります。皆様は、すでにご存じだと思いますが…

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

英文契約書の用語・単語

英語の「前…」と「元…」を表す英語表現: previousとformerについて

投稿日 ブログTags:

日本語では、例えば、今の首相のその前の首相であった人を表す「前首相」、その「前首相」の前に首相をしていた人々を「元首相」と言います。「前首相」は一人しかいませんが、その前に連綿といる「以前の首相達」―すなわち「元首相」は何人もいます。英文契約書の用語・単語というわけではありませんが、今回は、「前…」と「元…」を表す英語表現について考えてみました。

そこでいずれも「前の~」を意味する「previous」と「former」を見ています。

1.「previous」と「former」とは

「previous」と「former」の違いをThe New Oxford Dictionary of Englishで調べてみます。

(a) 「previous」について

previous exising or occuring before in time or order.(時機または順序の基準から見て、前に存在していた、または発生していたもの)

(b) 「former」について

former having previously filled a particular role or been a particular thing.(以前に特定の役割を果たしたことがある、または特定のものであったこと)

of or occuring in the past or an earlier period.

(過去または以前の期間のもの、または過去または以前の期間に発生したもの)

2. いずれも「前の~」を意味する「previous」と「former」の特徴と違い(その1)

「previous」の場合は、「1つ前の」と「順番が前の」を表す時に用い、「former」の場合は「過去の」と「時間的に前の」を表す時に用います。

「previous」も「former」も共に意味的には「前の~」ですが、「previous」 は、previous year (前年)の様に、前に起こった出来事や抽象名詞に使うことが多いといえます。

previous consolidated fiscal year    (前連結会計年度)

previous business year                   (前連結会計年度)

previous method                             (従来の方法)

previous regime                              (旧政権)

基本的に、「previous」は「順番・順序」を表しているので、時間の流れに言及していません。

「former」の場合は、その後に役職名が付くことが多いです。

former president(元社長、元大統領)

former principal (元校長)

former sales manager(前販売マネージャー)

former English teacher(前の英語の先生)

上記のように、「previous」と「former」は、意味的に同じでも、previous」は「時系列的に直前の、直近の」という意味で使われ、この「previous」は、「former」では代替できません

たとえば、I saw that dog walking on the previous day (私は前の日にあの犬が歩いているのを見ました)を I saw that dog walking on the former day ということはできません。

逆に、職業や身分の「元 ~」という意味の former は、 previous では代替できません。

たとえば、She is a former professor of Kyoto University (彼女は京都大学の元教授です)を She is a previous professor of Kyoto University というのは不自然です。

このことから「former」と「previous」の違いは、どちらも「前の…」と言う意味ですが、「former」には「元〇〇」「過去〇〇であった」ということで言外に「今はそうではない」と言っています。 これに対して、「previous」は、現在の状況についての言及ではなく、単に「順番的に前である」ということを言っています。

3.「元…」「前…」の表し方

上記の例で答は出ていますが、改めてその違いを、ここでは「首相」を例にとって確認してみます。

(a)「previous」を使った「前…」の表し方

previous prime ministerと言うと1つ前の首相だけを表します。つまり、「前首相」となります。

前首相とは、ただ一人の存在なので単数で、かつ特定される対象なのでtheが付いて以下の様な例文となります。

He is the previous prime minister.(彼は、前首相です((1つ)前の首相))

(b) 「former」を使った「元…」の表し方

「former」の場合、一人の元首相を表す場合は、a former prime ministerです。

former prime ministersとなると、元の首相達という意味になり、複数で表されます。

Mr. XXX is one of former prime ministers.(XXX氏は、元首相の一人です)

Mr. XXX is a former prime minister.(XXX氏は、元首相です)

「前大統領」は、「previous president」になり、「元大統領」は、「former president」となります。

余談ですが、大統領は、大工の棟梁から派生した言葉です。presidentをどう訳そうかとその当時のお歴々が頭を寄せ集めて考案した言葉です。

家一軒を建てることができる偉い大工の頭(かしら)で尊敬されている言葉にあやかりましたが、他の国のお頭様を「大工の頭-棟梁」呼ぶのは恐れ多いとして、棟梁を「統領」に置き換え、その上に彼の国のトップであるから「大」の字を奉じて、大統領をいうようになりました。

先人たちは、新しく日本に持ち込まれたシステム・言葉を日本語に置き換えるために頭を絞りました。例えば、切手、ハガキ等、今では日常で使われている言葉も先人たちの知恵から生み出されたものです。

「前の~」という意味を表す単語には、「previous」、「former」のほかにも「before」、「prior」、「ex」等がありますが、またの機会にとりあげてみたいと思います。

例文に訳文が付いている場合、それらの訳文は暫定訳(法律文を除く)です。
本ブログの内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。

弊社では、豊富な経験と知識に基づき原文に忠実かつ適格な翻訳を適正価格でお届けします。英日翻訳、日英翻訳のいずれにも対応しております。お客様によるAI翻訳の校正も行っております。

参考図書:The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)

英文契約書の用語

英文契約書の用語。単語 「責任」や「義務」を意味する言葉 Responsibility、Obligation、Liability、Dutyについて

投稿日 ブログTags:

今回は、英文契約書で「責任」や「義務」を意味する言葉のいつくかを作成した例文を通して(法律の条文を除く)を見てみます。いずれもいわゆる「責任」や「義務」を意味する言葉です。ここに記載した意味は、いずれも英文契約書で使われる場合の主な意味です。もちろん英単語の常としてここに書いた以外にも様々な意味を持ち、他の語と組み合わされて様々な成句を作ります。なを、いつものとおり契約書翻訳の視点から見たものです。

Responsibility 責任、使命、債務、任務、義務、債務の返済能力

形容詞形は、responsible:責任がある、責任を負うべき、~の原因である

「責任」を意味する代表的な言葉です。「当然果たすべき責任・義務」の意味合いがあります。

The Contractor shall maintain working capital to require for fulfilling its responsibilities under this Agreement. (請負業者は、本契約に基づくその責任を果たすために必要な運転資金を維持する)

Loss or damage, which results from Seller’s non-conforming preservation, packaging, crating or containerization, shall be the responsibility of Seller. (売主による不適切な保管、梱包、箱詰、またはコンテナ化に起因する損失または損傷は、売主の責任となる)

どちらかというと「be responsible for 」の形式で例えば、以下のように使われるケースも一般的で、よく知られている使い方です。

The user is responsible for using the latest version of this software. (ユーザーは、本ソフトウェアの最新バージョンを使用する責任がある)

The Company will be solely responsible for all aspects of transactions with End Users. (当社は、エンドユーザーとの取引のすべて面について単独で責任を負う。)

Obligation 義務、責任、債務、債券、動詞は「obligate」

ここでは義務、責任という意味も持ちますが、その中でも「強制力のある義務」、例えば「債務:債務者が債権者に対して一定の行為をする(給付)をすることを内容とする義務」等の意味でも多く使われます。ちなみに英和辞典には「慣例、習慣、礼儀作法を守るため、約束や協定を実行するために人が行わなければならないこと」とあります。

The responsibilities and obligations of the Contractor related to this Service shall be set forth in the Exhibit of this Agreement. (本サービスに関連する請負業者の責任と義務は、本契約の別紙に記載されている)

In performing its obligations under this Agreement, the Contractor shall perform the services stipulated in this Agreement. (本契約に基づくその義務の履行において、契約者は本契約に規定するサービスを行う)

If all obligations are due, or none of the obligations are due, the applicable performance shall be allocated in the order of the obligations which shall result in more benefit to the obligor when performed;(すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。)(民法

Liability 法的責任、責務、債務、義務、負債

義務、責任という意味も持ちますが、(損害・負債・支払いなどに対する)法的責任,責務の意味合いもあります。例えば、liability for damage(損害賠償責任)など。例文にはありませんが、保険に関する事柄が記載されている契約などでも多く見受けられます。なを、「損害賠償」については、「英文契約書の用語・単語 損害と損害賠償の表現(その1)とその」(2)」を参照してください。

The Seller, in its sole discretion, may terminate this Agreement without any liability whatsoever.(売主は、その単独の裁量で、いかなる責任もなしに、本契約を解除することができる。)

The Customer may revoke the whole or any part of this Agreement, without penalty or liability to or by Customer by giving written notice of termination to the Contractor. (顧客は、請負業者に解約通知を送付することにより、顧客に対する違約金または顧客による法的責任を負うことなく、本契約のすべてもしくは一部を解約することができる。)

Duty 義務、本分、任務、職務、勤め

英和辞典には「良心、忠誠心、法律に従って人が行うべきこと、または避けること」とあります。「人として当然に行うべきこと、または避けるべきこと」のようです。

He performs his duty. (義務(職務)を果たす)

He neglects his duty. (義務(職務)を怠る)

The Contractor shall perform his/her duties to the best of his/her abilities and shall comply with all laws and regulations related to the services under this Agreement.(請負業者は、その職務を全力を尽くして(全力で)遂行し、本契約に基づくサービスに関連するすべての法律および規制を順守する)

If a person who has received a testamentary gift with burden does not perform the duty imposed thereby, an heir may demand performance of that duty fixing a reasonable period to do so. (負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。)(民法

1つ1つの言葉を辞書で丹念に見てゆくと、それぞれの使いどころが感覚的につかめるようになります。辞書としては、取り扱いが面倒で場所もとりますが、やはり紙ベース辞書がおすすめです。義務や責任を表す言葉には、上記の他にもありますが、正確な翻訳には文脈に応じた単語の使い分けが求められます。

参考図書:

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

研究社新英和辞典(研究社)

法律英単語ハンドブック(自由国民社)

日本法令外国語訳データベースシステム

英文契約書の用語・単語 

英文契約書の用語・単語 expiration/expiry、 termination/terminate

投稿日 ブログTags:

今回は、英文契約書で使用されるexpirationとterminationについて作成した例文その他を通して英文契約書での使われ方の一例を作成した例文(法律の条文を除く)を通して契約書翻訳の視点(主に契約書で使われる場合の意味に絞って)から見てみます。いずれもなくてはならない言葉です。

  1. expiration/expiryについて
 expiration・expiry (期限・期間の)満了,満期(日),終結、終了

動詞形はexpire :(期間)が満了する,失効する

この英文契約書や法律文書では、契約や法律文に規定されるある期間について言及するときになくてはならない言葉です。

The obligations of the parties as set forth in this Agreement shall survive expiration or termination thereof. (本契約に規定する両当事者の義務は、本契約の満了、または、解除後も有効に存続する。)

In case of the expiration or termination of this Agreement, the Buyer shall return the tool for sales promotion rented from the Seller to the Seller.(本契約の満了または終了の場合、買い手は売り手から借りた販売促進用のツールを売り手に返却する)

This Option shall become effective on the date on which this Agreement commences and shall expire on the date on which this Agreement terminates.(このオプションは、本契約が開始した日に発効し、本契約が終了した日に失効する)

The parties hereto, at the expiry of this Agreement, undertake not to employ employees of the other’s party for a period of at least five years from the date of expiry of the present agreement.(本契約の両当事者は、本契約の満了時に、本契約の満了から少なくとも5年間は、相手方の従業員を雇用しないことを約束する。)

上記に作成した例文のようにexpirationやexpire単体でも使われますが、他の語と組み合わせて、期間についての様々な意味を表します。

expiration date: 満期日、満了日

expiration of period:期間の満了

expiry of term :期間の満了

The term of service of each director who is assumed as alternate or increase of the number of staff shall be till the expiration of term of service of incumbent directors.(補欠または増員で就任した各取締役の任期は、現任取締役の任期の満了すべき時までとする)

「期限切れ」とか「終わる」という意味では、契約書に限らず日常的に使用されます。

My employment-based visa will expire next month.(就労ビザは来月失効する)

My passport will expire next month.(パスポートは来月期限が切れる)

The copyright of this novel will expire in 50 years(この小説の著作権は50年後に切れる)

The subscription service expires when its service period come to an end.(サブスクリプションサービスは、サービス期間が終了すると終了します)

  1. termination/terminateについて
termination (継続すること・状態の)終了,終結、(契約の)解除,

動詞形はterminate :(継続的なこと・状態を)終わらせる、(関係・契約などを)打ち切る、解除する、(人を)解雇する

終わるという意味合いでは「expiration」と同じですが、例えば、「early termination of the Agreement」(契約の中途解約)というように継続している事柄を終わらせるというニュアンスで使われます。もちろん文脈的に「満期」の意味で使われることもありますが、やはり多くは「expiration」とは分けて使われるようです。

The obligations of the Contractor set forth in this Agreement of the shall cease to apply upon the expiry or the earlier termination of this Agreement.(本契約に規定の請負業者の義務は、本契約の満了または中途解約時に適用されなくなる)

During the term of the Agreement and for a period of three (3) years from the expiration or termination thereof, the partis hereto shall fulfill the Confidentiality.(本契約の期間中およびその満了または終了から3年間、本契約の当事者は本契約の守秘義務を履行する)

単に契約を終わらせるという意味であるなら、端的に次のような例になります。

Either party may terminate this Agreement immediately by written notice to the other party.(いずれの当事者も、相手方に書面で通知することにより、本契約を直ちに終了することができる)

expiration・expiry、termination・terminateはいずれも上記の意味以外にも様々な意味を持ちますが、冒頭で述べたようにここでは主に契約書で使われる場合の特に「終わらせる」の意味に絞ってみてみました。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)