英文契約書にある「Credit」例文集(その1)

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これまでも何回か取り上げた「Credit」についてです。タイトルは、「英文契約書にある「Credit」例文集(その1)」としてありますが、「Credit」の多様な使い方をという観点から英文契約書にかぎらず、様々な分野で遭遇した「Credit」の用法を参考に例文を作成してみます。「Credit」のいろいろな使い方を作成した例文を通して見てゆきます。

1.「Credit」の用例

Unrecognized net transition asset is credited to expense over 10 years on a straight-line basis. (未認識純資産は、10年間に渡り定額法で費用として戻されます。)

Some roads have improved greatly over the past 10 years, credited in part to the government infrastructure projects.(政府のインフラ整備プロジェクトのおかげもあり、一部の国々の道路はこの15年間でかなり整備されてきた。)

Thomas Edison is credited with the invention of light bulb. (トーマスエジソンは、電球の発明で知られています。)

The securities account of an investor in one clearing system may be credited during the settlement processing day immediately following the settlement date of the other clearing system.(一方の決済機関の投資家の証券口座は、もう一方の決済機関の決済日の直後の決済処理日に預けられる場合があります。)

the cash account will be credited for value on the settlement date.(現金口座には対価が決済日に入金される(払い込まれる)。)

Refund due on tickets paid for with a credit card can only be credited to the credit card account used for the original purchase. (クレジットカードで支払われたチケットに対して支払うべき払い戻しは、最初の支払いで使用したクレジットカードの口座に対してのみ入金できます。)

When interest rates rise, high interest rates are credited to interest rate-sensitive products. (金利が上昇すると、高金利が予定利率変動型商品に付与されます。)

If the mileage is not credited to your account within 3 weeks after your travel, xxx(旅行後3週間以内にマイレージが口座に入金されない場合は、…)

It is credited in income statement. (損益計算書に収益として計上

It is cash flows debited or credited to an account. (口座に入出金されるキャッシュフロー)

Consumption taxes paid are not fully credited against consumption taxes received. (支払われた消費税が受け取った消費税に対して完全に計上されていない。)

2. 貸方・借方についての疑問

ところで「以前にも触れましたが、辞書を見ると「Credit」の持つ意味の1つに「ある金額を〕〈人の〉貸し方に記入する」=「credit a sum to a person’s account」とあります。貸方=Creditで借方=Debitです。

そこで「借方」と「貸方」という言葉が何故そう呼ばれるのか調べてみました。

なぜなら、「借方」と「貸方」という漢字の意味だけから見るとややこしいことになっています。例えば、貸借対照表では、自分が貸しているお金(貸付金)」なのに貸借対照表の左側の「借方」に書かれており、反対に「自分が借りているお金(借入金)」は貸借対照表の右側の「貸方」に書かれていることです。

以下は、ウィキペディアからの抜粋です。

「日本に初期の複式簿記と中央銀行システムを輸入したのは福沢諭吉で、「debit」「credit」をそれぞれ「借方」「貸方」と翻訳したのは彼である。初期の財務諸表や複式簿記は債権・債務を記載する目的が主であり、主に銀行の経理で使用されていた。それを相手方から見た視点で記録していたため、貸方には相手方が貸した分を記載しているという意味があった。時代が下り、簿記技術が発展し、記録する内容が金銭の貸借関係から拡大していくにつれ、単なる「右側」という意味のみの符号と化した。」ということで、今は、単に、「左側」、「右側」の符号になっているようです。

複式簿記が生まれた中世イタリアでは、帳簿の左側に「自分からお金を借りている人の情報」を、右側に「自分にお金を貸してくれている人の情報」を書いたからといわれています(諸説あるようですが)。

借方 Debit 貸方 Credit
貸付金

自分は貸している-相手は借りている。

借りている側から見みた状態(借りている)を記載

借入金

自分は借りている-相手は貸している

貸している側から見た状態(貸している)を記載

以前にも書きましたが、例えばAがBに商品を販売し、その代金を後払いにした場合、Aは、Bに対する売掛金(債権)を有し、BはAに対する買掛金の支払い義務(債務)を負っています。この状況は、この売買代金は、A(債権者)の立場では、「my credit to B」、一方、B(債務者)の立場では、「my credit from A」とすることができます。https://www.ings-web.co.jp/archives/736 「Credit」は双方向で使用されています。

いずれにしても「Credit」は、奥の深い言葉です。

参考図書

ウキペディア:「借方」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2020年11月26日 (木) 16:55 UTC、URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/借方

新英和大辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

英文会計入門(日経文庫)他

英文契約書の会計用語 (その1)

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英文契約書には、会計(Accounting)に関する用語が記載されていることがあります。それ自体が専門分野である会計に関する用語は、当然のことながらその数は非常に多く、多岐にわたります。それら中でも、英文契約書会社定款等で最近みかけた用語のごく一部を取り上げてみました。日本語の訳語については、翻訳に際して一般に良く使われる訳語を参照しましたが、ここに記載した以外のものもあります。また、同様に英文に関しても同じ用語でも別の表現が使われる言葉もあります。用語の使用例として参考に一部の用語に例文を作成しました。なを、用語それに自体の意味等については、英文会計に関する専門書等を参照してください。

 

Accountant 会計士、経理担当者
Independent Accountant(独立会計士)Public accountant(公認会計士)Professional accountant(専門会計士、 職業会計士)

これら3つはいずれも会計事務所の会計士。

Private accountant(専属会計士、私的会計士:いずれも企業内に所属する会計士)

Accounting entity 会計主体
Accounting information 会計情報
Accounting firm 会計事務所、監査法人:auditing boards、audit corporation、auditing corporation
Account Name 口座名
Accounting process 会計作業、会計処理
Accounting report 会計報告書
Accounting standards 会計基準
Accounting systems 会計システム
Annual report 年次報告書
Asset 資産 cf. 負債:Liabilities、debt
Audit cost 監査費用
Audit report 監査報告書
Auditing 監査
Auditor 監査人    Independent auditors (独立監査人)

Operating Entity shall bear all of audit costs relating to the audit conducted by the accounting firm designated by a fair and impartial third-party committee. (運営主体は、公正かつ公平な第三者委員会により指定された会計事務所が実施する監査に関連する監査費用を負担する)

Audit shall be conducted in accordance with the audit plan.(監査は、監査計画に従い行われる)

 

Bank account 銀行口座
Bookkeeping 簿記
Book value 帳簿価格
Buy or make 内外製選択:Internal processing(社内加工)かOutside

processing (外注加工)かの選択

Bookkeeping 簿記
Budgeting 予算編成,予算管理
Certified public accountants   (CPA: 公認会計士) Certified public accountants   (CPA: 公認会計士)
Claim of creditor 債権者の請求権
Cost accounting 原価計算
Credit grantor 信用貸付人
Credit limit 貸付限度額
Credit rating 信用評価
Chart of accounts 勘定科目 Chart of accounts(勘定科目表)
Consolidated entity 連結主体
Cost analysis 原価分析
Cost center 原価部門
Double-entry 複式簿記:bookkeeping by double entry、bookkeeping

Payments shall be made by electronic cash transfer to the Seller’s bank account free from any charges except normal bank wiring charges. (支払いは、通常の銀行電信振込み手数料を除き、いかなる料金もなしに売主の銀行口座に、現金電信振り替えで行なわれる)

 

Earning capacity 収益力
External reporting 外部報告会計
Financial accounting 財務会計
Financial interest 金銭的利害
Financial information 財務情報
Financial planning 財務計画
Financial budget 財務予算

This financial budget signifies our long-term commitment to the development of this market for the next decade. (この財務予算は、今後10年間のこの市場の発展に対する私たちの長期的な取り組みを表します。)

General accounting  一般会計
Generally accepted accounting principles GAAP:, ―般に認められた会計原則

The consolidated balance sheets and the related consolidated statements of operations,  and cash flows present fairly shall be in accordance with the generally accepted accounting principles in the United States of America.(連結貸借対照表および関連する連結損益計算書、およびキャッシュフローは、アメリカ合衆国で一般に認められている会計原則に従って作成される)

 

Internal auditing 内部監査
Internal auditor 内部監査人
Internal reporting 内部報告会計
Interpreting financial information 財務情報の解釈
Inventory turnovers 在庫回転数
Income tax returns 所得税申告(書)

 

 

Legal entity 法的主体、法人、事業者
Liquidity 流動性
Liabilities 負債
Internal auditing 内部監査
Managerial accounting 管理者会計
Management accounting 管理会計
Operating results 経営成績、営業成績
Operating entity 運営主体
Open account 口座決済残高

 

The operating results for any quarter should not be considered indicative of results for any future period.(任意の四半期の営業成績は、将来における結果を示すものではありません。)

 

Payback period 資金回収期間
Payables 債務
Partnership パートナーシップ
Private industry 私企業
Professional service 専門サービス
Production process 生産過程

 

Nothing in this Agreement shall be deemed to create a partnership, joint venture or other relationship other than a seller – customer relationship.(本契約のいかなる規定も、パートナーシップ、ジョイント・ベンチャー、または、売主と顧客の関係以外のその他の関係を構築することはない。)

 

Product cost 製品原価
Profitability 収益性
Profit planning 利益計画
Promissory note 約束手形
Product cost 製品原価
Profitability 収益性
Proprietor 企業主
Publicly-owned company 公開会社
Revenue 収益
Receivables 債権 cf.  Payables(債務)
Single proprietorship 個人企業:proprietorship; private industry; private enterprise
Solvency 支払能力
Tax accounting 税務会計
Tax avoidance 合法的な租税回避、納税回避、節税、cf.  tax evasion(脱税)
Taxable income 課税所得
Tax returns 税務申告書
Tax services 税務
Title of accounts 勘定科目:account、account name、account title、account headings
Trade notes receivable 受取手形 cf. Trade notes payable(支払手形)

The Contractor shall file all Tax Returns to be required to file in timely manner.

請負業者は、適時に提出する必要があるすべての納税申告書を提出するものとします。

 

The company whose sole business purposes is the tax avoidance shall be prohibited by Acts and orders issued thereunder in this Country. (租税回避を唯一の事業目的とする会社は、この国で発行された法律および法律に基づく命令によって禁止されている)

会計用語は、英文契約書にかかわる場合に避けて通れない分野です。冒頭でふれたように専門分野である会計に関する用語は極めて多く、その中での知っておくと便利な用語を少しずつ取り上げてゆきます(不定期ですが)。財務諸表(Financial statements)の勘定科目については触れませんが、とりあえず、Receivable(受け取る)が付いた科目は債権で、Payable(支払う)がついた科目は債務とお覚えておくと良いかもしれません。

例:Account receivable(売掛金)、Account payable(買掛金)。

 

 

参考図書:

ランダムハウス英和大辞典

法律英単語 自由国民社

英文会計実務 日本経済新聞出版社

英文会計入門 日経文庫

英文財務諸表の知識 日経文庫

 

 

英単語の構成(その1)接頭語

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いつも英文契約書の用語・単語について契約書翻訳の観点から見ていますが、今回は、趣を変えて英単語を構成する要素についてです。

1. 英単語の構成

英単語は「接頭語」「語根」「接尾語」の3つのパーツから構成されています。

「語根」は、ほとんどがラテン語、ギリシャ語から来ていまが、一部ですがサンスクリット語から派生していると言われています。その中から今回は、「語根」の前にある「接頭語」を取り上げてみたいと思います。(接頭辞とも言われます。)

「接頭語」「語根」「接尾語」の例:

International
(国際間の、国際的な)を
inter‐【接頭語】「中・間・相互」の意.

nation-【語根】「国民、国家、民族等」

nal- 【接尾辞】「~の、~に関する、すること、している状態」

Propeller
(飛行機の)プロペラ、(船の)スクリュー、推進器)
pro‐【接頭語】「前へ」の意.

pell-【語根】「駆り立てる(Drive)」

er- 【接尾辞】「動詞について「人」、「もの」を表す名詞となる」

projector(投射器、映写機、プロジェクター) pro- 【接頭語】「前へ(forward)」

ject- 【語根】「前へ投げる」

or- 【接尾辞】「動詞について「人」、「もの」を表す名詞となる

2. 数値、量を表す主な接頭語

今回は、接頭語の中でも数値、量を表す主な接頭語をまとめてみました。

接頭語 意味 用例および意味
bi- 二つの bicycle(自転車)、bi-material(二元材料; 2層材; 二材料; 二種材料)
cent-, centi- 100分の1 centimeter(センチメートル)、centigrade(〔温度計が〕百分度の、セ氏の、〔温度計の〕百分度、セ氏温度計
deca-, dec-, deka- 10倍 decathlon(10種競技)、decade(  10年間)
deci-, 10分の1 deciliter(デシリットル)、decibel(デシベル)
demi- 半分 demitasse(デミタス)、demigod(半神半人)
di- 二つ、倍 dioxide(二酸化物)、2を意味するギリシャ語接頭辞、ラテン語接頭辞の場合、 bi- となる。
exa- 1018 (10の18乗) exabyte(エクサバイト(10の18乗バイト1Em))
femto- 10-15 femtosecond(1000兆分の1秒)
giga- 10億倍, 巨大な gigabit(ギガビット)
hecto-, hect- 100倍 hectare  ヘクタール(100アール)、hectometer(100メートル)
hemi- 半分 hemisphere(半球)、hemi-cylindrical(半円筒状)
hepta-, hept- 7の heptagon(七角形)、hepta-axial(7軸型)
hexa-, hex 6の hexagon (六角形)
kilo- 1000倍 kilometer(キロメートル)、kilogram(キログラム)
mega- 100万倍、巨大な megalopolis(巨大都市帯)、megaphone(メガフォン)
micro- 100万分の1、微細な microwave(極超短波、電子レンジ)
milli- 1000分の1 millimeter(ミリメートル)、milligram(ミリグラム)
mono- 一つの mono-color (単色の)、monotone(単調)
multi- 複数の、多くの multi-functio(多機能)、multicoloured(多色の)
nano- 10億分の1、極微細な nano-structure(ナノ構造)
nona-, non- 9の nonagon(九角形、九辺形)
oct-, octa-, octo- 8の octagon(八角形)
pan- 全、総 Pan-Pacific(汎太平洋の)、Pan-American  全米の
penta-, pent- 5の Pentagon(五角形、アメリカ国防総省)
peta- 1000兆倍 petabyte(ペタバイト)
pico- 1兆分の1 picosecond(ピコ秒)
quad-, quadri- 4の quadrangle(四角形)、quadruplet(四つ子)、Quadriceps(大腿四頭筋)
tera- 1兆倍 terabyte (テラバイト)、terabit(テラビット)
tetra-, tetr- 4の tetrahedron(四面体)
tri- 3の triangle 三角形、三角定規
twi- 2の twins     双子
undeca- 11の undecagon11角形
  1. 接頭語に分類される単位およびその数字の読み方
単位の倍数 接頭語
日本語表記 記号 英文表記 名詞(単位)
1030 グルーチョ 無し Groucho Nonillion
1027 ハーポ 無し Harpo Octillion
1024 ヨッタ Y Yotta Septillion
1021 ゼッタ Z Zetta Sextillion
1018 エクサ È Exa Quinyillion
1015 ペタ P Peta Quadrillion
1012 テラ T Tera Trillion
109 ギガ G Giga Billion
106 メガ M Mega Million
103 キロ k Kilo Thousand
102 ヘクト h Hecto Hundred
101 デカ Da Deca Ten

ちなみに日本語の接頭語は、例えば、超‐、全‐、真(ま、まっ‐)、新‐、旧―、反-、非-、不-、未-、無-等があります。例えば、接頭語の「真」(ま、まっ‐)は、「純粋に・正確に」といった意味を持っています。「真」が使われる言葉の一例では、白や黒の色に「真」が付くと、真っ白/真っ黒/真っ赤/真っ青(さお)となります。「黄」/「茶」などの色に「真」が付くと「真っ黄色」/「真っ茶色」という言い方になります。

参考図書:

SI接頭辞(2021年7月16日 (金) 11:50 )In Wikipedia: The Free Encyclopedia. Retrieved from https://ja.wikipedia.org/wiki/接頭辞

The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)他

イメージは、沖縄のコマカ島

 

 

 

Creditとネコの話とCreditと犬の話ほか。

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単語Creditは様々な意味と使われ方がなされます。これまで主に契約書翻訳の観点から見たCreditの使われ方を中心に何回か取り上げました。最近、いままで掲載した内容以外でも興味のある使われ方を目にする機会がありました。そこで改めて、以前の投稿から「creditとネコの話」と「creditと犬の話」をメインに単語creditについてまとめてみました。

1. 生活のさまざまの場面で使われるCredit:Creditの感覚的理解は大事なことだと思います。

単語Creditは、「クレジット」として日本語化していますが、英語としてみた場合、さまざまな意味がりあります。ネイティブは、生活のいろいろな場面で単語creditを使います。辞書を引くと多くの意味がかいてありますが、「Credit」の感覚的理解の一助ということで、以前にとりあげた「Creditとネコの話」と「Creditと犬の話」から入ってみます。*これらの意味については後述。 以下は、いずれも*ツイッター(個人的アカウント)上のやり取りの中で体験した内容です。

a. 「creditとネコの話」:「Credit」という単語についてツイッター上のやり取りの中での体験から

経緯としては、「ネコがワニにパンチをし、ワニが逃げ出す動画」が面白かったので、リツィートしたところ、米国人のフォロワーさんからコメントが送られてきました。内容は、「なんて勇敢なネコだろう!!ネコは素晴らしい!!ネコが大好きです」と綴られ、その後に、「Cats aren’t given enough credit.」という一文がありました。直訳すれば「ネコは、十分に認められていない」、「ネコは、十分な信用を与えられていない」等になりますが、文脈的(書いた方の心情)に「ネコは、正当な評価を受けていない」とでも言うのでしょうか。辞書を見ると、たしかに「信用、名声、評判」もあります。

話は「ネコ」にもどり、コメントを頂いた方の意見に同意する旨の返事を送りました。ただし、コメントを送ってきた方が、このやり取りをツイッターのタイムラインに投稿したため、別の方からもコメントが送られてきました。
内容は、It’s true they aren’t given enough credit, から始まる内容で、「ネコが正当な評価を受けていないことは事実であるが、ネコは、鳥を殺すので、ネコに鈴を付けろ、云々」という内容でした(ネコに鳥を殺された経験がある人のようです)。ここでも、「Credit」という単語を使っています。ネイティブの方は日常会話の中でCreditを普通に使います。

b. 「creditと犬の話」:「Credit」という単語についてツイッター上のやり取りの中での体験から

ツイッターのフォロワーさんからの投稿で、2匹の犬が1本の棒を仲良く口にくわえている写真が掲載されたツィートがありました。このキャプションは「Two friends sharing equal credit for capturing a stick」というものでした。この写真を掲載した経緯の説明はありませんが、ここにおける「Credit」(名詞)は「名声、評判、名誉」の意味で使われています。
写真では見えませんが「しっぽ、フリフリ」で自慢げにご主人様に獲物の枝を見せて、ご主人様の「オー、よしよし」という賞賛の声が聞こえてくるようです。
「二人は友達だから、獲物を取ったお手柄(名誉)も半分ずつに同じように分け合います。」のように訳せるのではないでしょうか。このあたり、「Credit」を感覚的に理解していないと、文の意味をとらえるのは難しいかもれません。

c. Creditによる著作権の帰属についての表現
これもツイッターを例にとったはなしですが、例えば、ツイートした画像の著作権を明示する場合、Creditを使い、All pictures are credited to their respective owners.と書いてあることがあることあります。(辞書を見ると「credit to」は多くの場合、「貸し方に記入する」となっていますが、この場合、「自分のTwitterのサイトに載せているすべての写真の権利は、それぞれの所有者にあります。」とすれば分かりやすいのでは。もちろんこの件については、Creditを使わないさまざまな書き方があります。例えば、All photos belong to individual owner.等

*ここに出てくるツイッターの内容は、「筆者個人のTwitterアカウント」からのものです。ここにとりあげた以外にもさまざまな「Credit」の使い方に出会います。個人的に「Credit」を感覚的に理解するのに助かります。

2. 「Credit」についての英語独特の概念-例えば、A(債権者)とB(債務者)双方の立場を表すのに「Credit」が使われることがあります。

例えば、AがBにお金を貸した場合や商品を売った場合、Aからすると貸したお金や販売代金は、「債権」となり、お金を借りたり、商品を買ったりしたBからすると借りたお金や商品を買った代金は、「債務」となりますが、「Credit」を使って表現する場合、A(債権者)の立場では、「my credit to B」、一方、B(債務者)の立場では、「my credit from A」となります。日本語の感覚からすると債務者B立場からは「my debt」としてもよさそうなものですが、多くは、双方の立場を表すのに「Credit」が使われます。
なお、英文契約書では以下の様表現もあります。
The Buyer shall credit the payment for goods to the Seller’s account by due date.(買主は、支払い期日までに商品代金を売主の銀行口座に入金するものとします。)

3. その他
a. 最近気になったCredit:映画などで使われるCreditほか
この場合のCreditの意味としては、「出版物・演劇・放送番組などに使用された材料の提供者に口頭または紙上で表わす敬意」です。たまに手掛ける映画配給契約、コンテンツ配信契約等で良く目するのですが、上記の債権・債務を表すCreditと混在してこのCreditが出てくることもあります。その他、最近の案件では、学校の履修単位や科目のCreditがありました。

b. その他のCreditの主な意味
名詞としての意味:信用、名声、名誉、功績、信用貸し、掛け売り、支払猶予期間、預金残高、履修単位、(映画などの)クレジット表示等。

動詞としての意味:~を信用する、貸方に記入する、銀行口座に入金する、(功績などを)認める、(学生に)単位を与える、の名誉となる等。
そのほか、他の語と組み合わされて成句を作ります。例:credit inquires (信用調査)、consumer credit(消費者金融)、credit beneficiary (受益債権者)等、その他様々成句があります。

契約書翻訳という観点から、単語・用語について文法的・法律的側面を除き、知っておいて損はないすぐに使えそうな知識としての英単語・用語について書いてきましたが、「Credit」にひとつを例にとっても、ある単語を理解するには、契約書翻訳の観点からの理解だけでは不十分です。おおげさに言えば、何百年のかけて培われてきた英語圏の文化の一端にふれるわけですから。

参考図書:

トレンド(小学館)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

 

 

 

英文契約書の時制と権利・義務を規定するスタイルについて

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英文契約書の特徴の1つとして時制があります。冒頭の規定、定義条項は、基本的に現在形を使用し、契約の履行にかかわる権利・義務の規定に関して、権利を定める条項は基本的に「may」、「shall have the right」等をの助動詞を使用し、義務を定める条項は基本的に「shall」、「must」、「will」等の助動詞が使われます。なを、冒頭の規定、定義条項を除く英文契約書の全体にわたって「shall」、「must」、「will」が使われているわけでもありません。また、その書き方の特徴の1つとして、その契約に関して発生するであろう様態を列挙して(仮定して)、これらに対する当事者間の権利・義務を規定しますが、その際に、ある様態を挙げる場合、使われるのが「if」、「in the event that」、「in case where」、「in case that」、「in case of」等です。

今回は英文契約書の時制と権利・義務を規定するスタイルについて、作成した例文を通して簡単に見てみます。

1. 定義条項の例

“Business Day” shall be between the hours of 09.00 to 17.00 during any day other than a Saturday, Sunday, Japanese national holidays prescribed in the Act on National Holiday and year-end and new year holidays. (「営業日」とは、土曜日、日曜日、国民の祝日に関する法律に定める日本の祝日、年末年始除く日の午前9時から17時までとする。)

2. 権利を定める文章の例

Either party may terminate this Agreement if: (いずれの当事者も、以下の場合、本契約を解除することができる。)

The Company may assign this Agreement.(会社は、本契約を譲渡することができる)

The parties hereto shall have the right to use subcontractors in the performance of their obligations. (両当事者は、その義務の遂行において、下請業者を使う権利を有する。)

3. 義務を定める文章の例

Obligations specified in the above paragraph must be appropriately executed by the parties.

(両当事者は、前項に規定する義務を適切に履行しなければならない。)

Employee shall immediately report an occurrence of loss or damage due to power failure to his/her supervisor.(従業員は、停電による損失または損傷の発生を直ちに上司に報告するものとする。)

Licensor shall have no liability to Distributor under this Agreement for any loss or damages due to force majeure.(ライセンサーは、不可抗力による損失または損害賠償について、本契約に基づいてディストリビューターに対して責任を負わないす。)

「will」も、「将来~する」ということですが、やはり「shall」、「must」に比べると義務の履行に対する強制力が弱くなる感があるのか、一方当事者が、相手方に対して「will」で記載された部分を「shall」に変えろとの交渉を行うことを見聞していますが、やはりこの辺りは、当事者間の力関係により左右されるようです。

 

4. その他

許可、禁止等を規定する場合に「may」、「may not」、「shall not」を使う場合が多く見受けられます。

You may only use this Software for your private and non-commercial use.(本ソフトウェアは、私的および非営利目的でのみ使用できます。)

Rights or benefits arising from, or in connection with, this Agreement may not be assigned.(本契約に起因する、または関連する権利もしくは利益は、譲渡できない。)

This procedure shall not be executed by an attorney-in-fact.

(本手続きは委任状による代理人が行うことはできない)

ここにあるのは、権利・義務を規定する代表的なスタイルの一部です。ただし、ブログとしてとりあげるのは、とりあえずこの程度とします。なを、機会を設けていろいろな視点から権利・義務の規定のスタイルについて見てみたいと思います。

参考図書:

新英和大辞典(研究社)他

(イメージは、与論島)

英文契約書の単語・用語 「not only ~ but also ~」について

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1. not only ~ but also ~とは

not only A but also B(AだけではなくBも)は、多分、中学で習った構文です。口語ではこの表現はあまり使われません。基本的には、「どちらも~である」という表現ですので、話し言葉では、「AもBも~である」という様な表現になると思います。

Ted can speak English and Japanese.(テッドは英語と日本語を話すことができる)でなく、Ted can speak not only English but also Japanese.の「英語ばかりでなく日本語も話すことができる」というような、あえて回りくどい言い方をして、but also以下を強調し、「テッドは日本語も話せるんだよ。」という、最も相手に伝えたいことを文章の後ろの方に置く、いわゆる倒置の表現を使って強調しています。

 

not only A but alsoには、いろいろなバリエーションがあります。まずは、簡単な文章で確認してみましょう。

(前半部のnot onlyが省略されたり、後半部のbut (also)が省略されたりする場合があります。)

以下に作成した例文のように、基本的には、Aが名詞ならBも名詞、形容詞なら形容詞、句/節の場合なら句/節が入ります。AとBの部分には文法的に「同等・対等」なものが入ります。

例文

He is not only shy but also bashful.(彼は内気であるばかりでなく恥ずかしがりやだ。)

He keeps not only a cat, but also a dog.(彼は猫だけでなく犬も飼っている。)

That’s not only big, but also heavy.(それは大きいだけでなく重い。)

Not only you but also me can benefit from the service.(きみだけでなく私もそのサービスから利益を得られる。)

He not only arrived late but also forgot to bring his books.(彼は遅れてきただけでなく、本を持ってくるのを忘れた。)

Traveling in Tohoku is interesting not only in summer but also in winter.(東北を旅することは夏だけでなく冬も面白い。)

Workers shall, not only observe matters necessary for preventing industrial accidents, but also endeavor to cooperate in the measures pertaining to prevention of industrial accidents conducted by employers or other said parties.(労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない。)労働安全衛生法

2. 英文契約書での用例

not only ~ but also ~ の構文は、英文契約書でも使用されることがあります。英文契約書で用例については、以下に例文を作成しました。

Party A shall endeavor not only to avoid falling short of the standards specified by the specifications but also to further improve the level of its standards.(大学は、基準より低下した状態にならないようにすることはもとより、その水準の向上を図ることに努めなければならない。)

In the sending of the document prescribed in this Agreement, not only the original, but also a copy of the document is acceptable considering any other circumstances.(本契約に規定する文書の送付は、原本のほか、その他の事情を考慮して、文書のコピーも認めることができる。)

Employees shall, not only observe matters necessary for preventing industrial accidents, but also endeavor to cooperate in the measures pertaining to prevention of industrial accidents conducted by this company.(従業員は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、本会社が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない。)

上記の例文は、以下の様に書き換えられます。

Employees shall observe matters necessary for preventing industrial accidents and endeavor to cooperate in the measures pertaining to prevention of industrial accidents conducted by this company.

参考図書

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

研究社新英和辞典(研究社)他

(写真:ドイツ バイエルン ケーニヒス湖)

英文契約書の単語・用語 「~がない」の表現について

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日常生活でも「~がない」という表現が使われます。国語辞典を見ると「~がない」といってもさまざまな「~がない」があります。例えば、「お金がない:~を持っていない:所有してない」、「それを見たことがない:経験がない」、「彼は家にいない:不在です」、「そのような事実はない:存在しない」等、これら以外にもさまざまな意味あります。(日本語は奥が深い!)

当然ですが、「~がない」という表現を英語に置き換える場合、上記の例では、I have no money (お金がない)、I have never seen it (それを見たことがない)、He is not here.(彼はいない)等で表現されます。もちろん「~がない」=「No」を文頭や文中につけて表現することもありますが、この用例も含めて、英文契約書の中で使われる「~がない」という表現について良く目にするもの、知っておいて損がないいくつかの単語・用語・表現を*作成した例文を通して見てみます。特に「 物事が存在しない」という意味を中心に、契約書翻訳の観点から見ています。(*一部除く)

1.「No」または「None」を使用した例

None of the parties may assign or transfer any of its or their rights under this Agreement. (いずれの当事者も、本契約に基づく当事者、もしくは各当事者の権利を譲渡または移転することはできない。)

No previous agreements, arrangements or contracts shall apply to this Agreement. (いかなる以前の合意、取り決めまたは契約も本契約には適用されない)

2.「there is no」を使用した例

The Contractor shall assure that there is no impact to business operations if such interruption occurs. (請負業者は、そのような中断が発生した場合でも、事業運営に影響がないことを保証する。)

3.「be free from」を使用した例

「be free from」は、以前にも売買契約書を例にとって「英文契約書の用語、構文(その17)」で取り上げたことがあります。

The Products to be delivered hereunder shall  be free from defects and faulty materials and correspond with any sample and conform to any description, instructions, specifications, and other conditions agreed between the parties. (本契約に基づき引き渡される製品は、瑕疵がなく、材料にも欠陥がなく、サンプルと一致し、説明書、指示書、仕様書および両当事者間で合意したその他の条件に準拠する(抄訳))契約書に限らず、技術文書でも良くみられます。

The finished surface shall be free from any burr, scratch, and damage. (仕上げ面には、バリ、引っかき傷、損傷がないものとする)

4.「in the absence of」を使用した例

In the absence of a choice of law under the preceding Article, the formation and effect of a juridical act shall be governed by the law of the place with which the act is most closely connected at the time of the act. (前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。)(法令第8条

5.「not exist」を使用した例

Any obligation of the Seller of this Agreement to inspect the quality of the transferred products to third party from the Buyer does not exist. (本契約の売主には買主から第三者に譲渡された製品の品質を検査する義務はない。)

Nothing in」を使用した例

Nothing in this Agreement shall be construed to create any other relationship between the parties hereto. (本契約のいかなる内容も、「両当事者」間にいかなるその他の関係を構築することはない。)この文章は、定型文として良く目にします。

いずれも英文契約書に限らず、経験上、「~がない」の表現が必要な英文のドラフティングを行うときに覚えておくと以外に便利です。なを、「~がない」については、上記以外にさまざまな単語、用語、表現があります。それらはまた別の機会に見てみたいとおもいます。

参考図書:

大辞泉 (小学館)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)他

(写真はベトナムハロン湾)

英文契約書の単語・用語 デファクト(de facto)「事実上の」について

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英文契約書では、ラテン語やフランス語などからの用語が使用されていることがあります。

これまでにも、英文契約書の用語、構文からbona fide」、「Force Majeure」、「inter alia」、「per annum」、「pari passu 等を契約書翻訳の観点からとりあげています。今回は、このデファクト(de facto)について見てみます。

De Facto(デファクト)とは

De Facto(デファクト)とは、ラテン語由来の言葉であり、「事実上の」という意味を表しています。De Facto(デファクト)という言葉に関連して、*デファクト・スタンダード(De Facto Standard)という言葉があります。*デファクト・スタンダード(De Facto Standard)とは、ISO、DIN、JISなどの標準化機関等が定めた規格ではなく、市場における競争や広く採用された「結果として事実上標準化した基準」を指します。

デファクト・スタンダードは、一般に「事実上の標準」と翻訳されています。

De Facto(デファクト)の対義語

デファクト(de facto)の対義語(意味が反対となる語や、意味が対照的になっている語はDe jure(デジュール)です。これには「法律上の」「規則上の」という意味があります。

なを、デジュール・スタンダード(De Jure Standard)と呼ばれる規格があり、これは公的な標準化機関で合議制により認証された規格です。

De FactoとDe Jure両方の言葉を使って、その違いを見てみます。

A distinction must be made between what is found de jure and de facto.

(法律上の内容と事実を区別する必要があります。)

例:

de facto standard(デファクト・スタンダード) – 事実上の標準、

対義語は、de jure standard(デ・ジュリ・スタンダード) – 法律上の標準、規則上の標準

de facto monopoly(デ・ファクト・モノポリ) – 事実上の市場独占

de facto husband / wife(事実上の夫 / 妻) – 内縁関係の配偶者

de facto state of marriage  – 事実上の婚姻関係

The person who should be given compensation for bereaved family shall be the spouse of a worker (including the person who has de facto marital relations with him or her even without a marriage notification; hereinafter the same rule shall apply).

(遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。以下同じ。)とする。)(労働基準法施行規則

The country was de facto divided between two states.

(その国は事実上2つの州に分かれていた。)

XXX is de facto official language in YYY.

(YYYでは、XXXが事実上の公用語です。)

XXX is de facto bankrupt.

(XXXは、事実上の破綻状態です。)

with the death of his father, he became the de facto head of the family

(父の死に伴い、彼が一家の事実上の長となった。)

デファクトという表現ではなじみがないですが、「事実上の」という表現は、日常でも多く使用されています。

平易な書き方

de factoを使わなくても、例えば、effective、practical、factualやその他の言葉を使い「事実上の」という表現を表すことができます。

例1)if either party becomes de facto company liquidation;

(いずれかの当事者が事実上の会社整理となったとき…)

上の文章は以下の様に書き換えられます。

if either party effectively becomes company liquidation;

例2)He is the de facto manager.

(彼が事実上の管理者です。)

上の文章は以下の様に書き換えられます。

He is the manager in all.  He is the virtual manager. He is the manager as a matter of practice.

参考図書:

デファクト・スタンダード」2021年5月4日 (火) 12:26『ウィキペディア日本語版』

対義語」2021年4月17日 (土) 15:32『ウィキペディア日本語版』

法律英単語ハンドブック(自由国民社)

Japanese Law Translation

The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)

Merriam-Webster (Webster)

英文契約書の単語・用語  日本語の「被~」という表現について

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契約書・法律文書に限らず、一般的な文章でも「被~」という表現が使われています。何気なく使っていますが、なじみがない言葉だと、「被~」という表現を目にしたとき、「はてこの意味は・・・・」と一瞬考えてしまう経験があります。「被」という言葉の意味を国語辞典で調べてみると、色々な意味があります。今回とりあげるのは、「被」の意味のなかでも、「他人から、行為や恩恵などを受ける」、「行為を表す漢語に付いて、他から…される、他からその行為をこうむる」の意味の部分です。例えば、「被害」をいう言葉があります。意味としては、「損害や危害をこうむること」、「受けた損害や危害」とあります。当然ですが、被害を受けた人は、「被害者」です。

日本語だと「他から…される、他からその行為をこうむる」人や対象を表す場合、単純に「被」に後に行為の対象となる事柄をくわえるだけですが(「被~」を使わない場合、使う必要がない場合も多くあります。なを、契約書・法律文書では「被~」の表現が多くみられます)。英語の場合はどうでしょうか。契約書翻訳の観点から見てみます。

1. 単純に「被~」と英訳できない

契約書翻訳も含めて「被~」を日本語から英語にする場合に「被+~」とするわけにはいきません。

英語は、日本語の様に、ひとつひとつの文字が意味を表す表意文字でないため、文字自体にidea(意図、考え方)がありません。そのため、日本語の「被」にあたる英単語を付けて、「~を受ける、~される、~こうむる」の意味を持たせることはできません。

英語では、日本語のさまざまな「被+~」の言葉のそれぞれ対応する英単語・句があります。例えば、動詞の場合、過去分詞のみ、過去分詞+人またはもの、あるいは、ある言葉の後ろに「ee」を付けて、「被…」とする場合もあります。

上記の例には、下記に表にあるように被保険者(insured、assured)、被害者(injured parson)、被許諾者(grantee、licensee)等があります。

以下にいくつかの例を挙げてみます。なを、「被+~」に対応する英単語には以下に記載した単語以外のものもあります。

被裏書人 indorsee、endorsee
被害 harm、injury
被開示者 disclosee
被害者 Injured、injured parson、 victim
被拐取者 abducted person
被害届 incident report
比較法 comparative jurisprudence、comparative law
被疑者 suspect
被許諾者 Grantee、 licensee
被拘禁者 detained person
被後見 wardship
被後見人 ward
被告 defendant
被告事件 criminal case
被告自身の証言 defendant’s own testimony
被告人 criminal defendant
被収容者 inmate
被上訴人 respondent、appellee
被選択権者 optionor
被相続人 *decedent
被担保債権 claim secured
被保険者 insured、assured
被保証人 guarantee
被用者 employee

*「被」が付いても、被相続人は、「相続人が相続によって承継する財産や権利義務のもとの所有者」で、相続人(heir)は、「被相続人の財産上の地位を承継する人」

The child of a decedent shall be an heir.「被相続人の子は、相続人となる。」(民法

2. 「被~」の言葉の意味を把握した上で、適切な英単語やフレーズを作成する

上記のように、多くは、辞書等に記載がありますが、そうでない場合も多く、また定訳がない場合もあります。その場合、その「被~」の言葉の意味を把握した上で、適切な英単語やフレーズを作成する必要があります。

 

以下に上記の例を使った例文を作成してみました。

The act or omission of one insured will not invalidate the policy as to the other insured.

(いずれかの被保険者の作為または不作為によって他の被保険者に対する証券の効力が失われない。)

A copy of the insured amounts and the receipt of payment shall be provided each year.

(保険総額と領収書のコピーは、毎年、提供されるものとする。)

Premiums are determined in accordance with an insured person’s salary.(保険料は、被保険者の給与に応じて決定されます。)

In the Agreement, it shall clarify where responsibility lies before deciding the final repair cost to be paid to the insured.(契約では、被保険者に支払う最終的な修理費用を決定する前に、責任がどこにあるかを明確にするものとします。)

用例、例文は契約書翻訳の観点から当方にて作成したものですが、内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。

参考図書

大辞泉(小学館)

法律英単語(自由国民社)

ランダムハウス英和大辞典

ビジネス法律英語辞典(日経文庫)

日本法令英訳プロジェクト

 

 

 

英文契約書の単語・用語 entitle、entitlementおよびこれらの類語・類似表現

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単語「entitle」は、英文契約書や法律文書の欠かせない定番の単語の1つです。さまざまな場面で使用されます。契約書翻訳の観点から概説します。

1. entitle

「権利を与える、資格を与える、〜に題名をつける」

Licensor is entitled to ~(ライセンサーは~の資格を与えられている・ライセンサーは~する権利がある)

This Agreement shall entitle Reseller to purchase Products at the discounted prices.(本契約は、再販業者が割引価格により製品を購入する権利を与えるものとします。)

entitleの名詞形は「entitlement」(権利・資格(付与))です。

2. 類語・類似表現

類語・類似表現には以下のようなものがあります。これらは本来、それぞれ文脈に応じた使い分けが必要ですが、以下に作成した例文では、結果的に「何かの権利・資格が与えられている=何かの権利・資格を有している」というニュアンスになります。英文契約書で使われる代表的な意味とそれに合わせて作成した例文(*を除く)を通して、これらについての用法をざっと見てみます。また、ここで書いた各単語の意味は契約書という観点からかなりしぼってあります。これ以外にも多くの意味と用法があります。

a)  give

「権限を付与する・権限を与える」

例えばgive somebody authority to doの形で、The managing committee gives the person in charge the authority to supervise the subcontractors.(運営委員会は、担当者に下請け業者を監督する権限を与える)

b)  vest

「(権利・財産)与える、授ける」

vest someone with authority((人に)権限を付与する)の形で、例えば、

The board of directors may vest the employees with the award of superior performance. (取締役会は、優れた業績に対する賞を従業員に与えることがきる。)

またはvest in(帰属する)の形で、例えばThe ownership of the properties shall be vested in the successor.(物件の所有権は後継者に帰属する。)

*The receipts from work shall vest in the national treasury. (作業の実施による収入は、国庫に帰属する。)http://www.japaneselawtranslation.go.jp/kwic/?re=01

b.  confer

「~を授与する」

confer something on someoneの形で、Nothing in this Agreement, express or implied, shall not be intended to confer on any third party any right under this Agreement.(本契約のいかなる条項も、明示・黙示を問わず、本契約に基づく権利を第三者に与えることを意図しない。)なお、本例文は、強調のため文章を倒置してあります。

c. bestow

「~を授ける、与える、贈る」

例えばbestow something on someoneの形で

The committee shall bestow the full authority on him.(委員会は彼に完全な権限を与える。)

私見ですが、「bestow」は実際の翻訳作業では、正直あまりお目にかかることはありません。

c)  allow

「許す、認める」

This Agreement shall not allow the Buyer to establish the right of lien to the products prior to the payment thereto. (本契約は、購入者が製品の支払い前に製品に対する抵当権を設定することを許可しない。)

「entitle」を使って上の文章と同じような感じの意味を持つ例文を作ってみました。

This Agreement shall not entitle the Buyer to establish the right of lien to the products prior to the payment thereto. (本契約は、購入者が製品の支払い前に製品に対する抵当権を設定する権利を与えない。)

上記の例文を購入者側の立場から見た場合は、以下の様な例文になります。

The Buyer shall not be entitled to establish the right of lien to the products prior to the payment thereto. (購入者は、製品への支払い前に製品に対する抵当権を設定する権利を与えられていない。)

Only one (1) entry is allowed per person during the contest period.(コンテスト期間中、出品作品は1人につき1点のみとします。)

d)  permit

「許す、許可する、許す、可能にする」名詞形は「permission」

以下の例文は、同意を与えて「許す、許可する」の意味。

The Licenser shall not permit the Licensee to use its trademark without the prior written permission of the Licenser.(ライセンサーは、ライセンサーの書面による事前の許可なしに、ライセンシーがその商標を使用することを許可しない。)

e)  authorize

「正式に許可する、認可する」名詞形は「authorization」

Distributor is authorized to sell the products under this Agreement. (ディストリビューターは、本契約に基づき製品を販売することを許可されています。)

f)  grant

「許可する、承諾する」名詞形もgrant「許可,認可」

辞書を見ると「願いにより許可する」という意味もあり、英文契約書でも、そのようなニュアンスの例文を作ってみました。

Upon a request of the Licensee, the Licenser may grant the Licensee to use such license after payment of the license fee. (ライセンシーの求めに応じ、ライセンサーは、ライセンス料の支払い後に当該ライセンスの使用を許可することができる。)

すでに述べたように、実際には、上記いずれの言葉もそれぞれの状況に応じた使い分けが必要ですが、例文的には結果的に「何かの権利または資格が与えられている=何かの権利または資格を有している」という解釈で作成しました(いささかとってつけたような感じはありますが)。上記の言葉の他にも様々な表現やフレーズがあります。これらについては、別の機会を設けたいと思います。

参考図書:

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

ビジネス法律英語辞典(日経文庫)

How to Create Effective Sentences in English (文英堂)

The New Oxford New Dictionary of English (Oxford University Press)

日本法令外国語訳データベースシステム