英文契約書の用語、構文(その14) 「条、項等について」

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英文契約書における条、項

1. 原則自由

契約書翻訳の中でも英文契約書における内容の表示の方法、すなわち「条」とか「項」の表示の方法は、原則自由です。もちろん、企業、政府、団体等で項目についての表記を厳密に定めている場合もあります。例えば、ある国の政府の契約書に添付する文書については、文書が書かれたものは、「Attachment」、表が記載されているものは、「Exhibit」とする、その他番号の付け方も、「1」と間違いやすい「i」とか「0」間違いやすい「o」は使わない等、細かく規定する場合もありますが、原則、基本的には、自由です。起草者が作りやすいように構成します。したがって、例えば「」も、一般的には「Article」が使われる場合が多いようですが(「」という概念を「Article」に当てはめて翻訳したわけですが)、起草者の好み、習慣により、日本語の「条」に相当するものとして「Clause」、「Section」、「Paragraph」等を「Article」の代わりに使う場合や、数字の「1」、「2」、「3」をそのまま使う方法も、以外と多く見られます。

2. もっとも一般的でやりやすいと思われる方法(英文契約書を自分で起草する場合)

英文契約書における「条」とか「項」あるいは「号」等の表示の方法は、さまざまですが、一般的なものとしては、第1条、第2条という場合、やはり「」=「Article」でしょうか。経験的には、「Article」が使い勝手が良いようです。一般的に、文中で「~条項」と記載する場合は、「~clause」、また、「前項」などと記載する場合は、「the preceding paragraph」とします。

自分で契約書を起草する際、例えば、「Article 1(第一条)」として、その下に、1(第1項)、2(第2項)、3(第2項)と項目を配置したり、または1-1(第1-1項)、1-2(第1-2項)、1-3(第1-3項)等とします。これらをさらに細分化する場合、(a)、(b)、(c)を使い、さらにさらに細分化する場合は、(i)、(ii)、(iii)とします。もちろん(a)、(b)、(c)の部分に(1)、(2)、(3)を使ってもかまいません。

Article 1

1 または1-1

(a)

(i)

(ii)

たいていの場合これで十分ですが、契約書の盛り込む内容が多い場合、「Article」をいくつかの「章」=「Chapter」に分けることもあります。例えば、Article 1からArticle 15までは、「Chapter 1」=「第一章」、Article 16からは、「Chapter 2」=「第二章」とすることもあります。 とにかく起草者は、自分がやりやすく、読み手が見やすい方法を採用するのが一般的です。なを、あらかじめ目次「Table of Contents」を準備しておくと、チェツクするのに便利です。

英文契約書ではありませんが、日本の法律を英語に翻訳する際の「日本法令外国語訳推進会議」のガイドラインがあります。参考までに以下に記載します。

目次              「Table of Contents」

編               「Part」

章               「Chapter」

節               「Section」

款               「Subsection」

目               「Division」

条               「Article (Art.)」

項               「Paragraph (para.)」

(1) (2) (3) [見出しとして用いる場合]

号              「item」

(i)(ii)(iii)  [見出しとして用いる場合]

イロハ            「(a)(b)(c)」

(1) (2) (3)    「1. 2. 3.」

(i) (ii) (iii) 「 i. ii. iii.」

枝番号     「-1, -2, -3」

 附則   「Supplementary Provisions」

別表第…(第…条関係)        「Appended Table … (Re: Art. …)」

__      「Row」

__     「Column」

別記様式   「Appended Form」

例文に訳文が付いている場合、それらの訳文は暫定訳(法律文を除く)です。
本ブログの内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。

弊社では、豊富な経験と知識に基づき原文に忠実かつ適格な翻訳を適正価格でお届けします。英日翻訳、日英翻訳のいずれにも対応しております。お客様が行ったAI翻訳の校正も承っております。

英文契約書の売買契約(その2)

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英文契約書による売買契約の一般的な構成と、ごくごく基本的な事柄に関する用語の簡単な確認の続きです。以下の前回書ききれなかった項目等を例によって、契約書翻訳の観点からざっと見てみます。

  1. Intellectual Property (知的財産)
  2. Inspection and Acceptance(検査と受領)
  3. Claim and Remedy (クレームと救済)
  4. Take or Pay(テイクオアペイ)
  5. Right of First Refusal(ファーストリフューザル)
  6. Hardship (ハードシップ)

 

 11. Intellectual Property (知的財産)

いうまでもなく、売買される商品の「商標」、「特許」、「著作権」、「その他」、「知的財産権」についての記載です。知的財産権の侵害を防ぐ記述内容とともに、商品が他人の知的財産権を侵害していないことを確認することは、必須であり、その他、万が一のクレーム発生に備えることも必要です。
知的財産に関する条項は、おおまかに、「売主」の立場に立ったもの、「買主」の立場に立ったもの、一定の範囲に限って「売主」が「買主」の商品の使用に起因する「知的財産」を侵害した場合の責任を負担する場合等があります。分野としては、膨大な内容になるため、この程度で留めます。

その他「知的財産」については、いずれも散文的であり、売買契約についての内容ではありませんが、「知的財産契約」と「Proprietary RightsとIntellectual Property Rights」についての、以前のブログ記事があります。

12. Inspection and Acceptance(検査と受領)

最近では、エアバッグの不具合など大きな問題が見受けられます。過去においても多くの問題が発生し、当然、リコールや訴訟に発展し、当然、損害賠償契約解除の対象になります。普通に考えてみれば、「買主」に商品がわたった時点で、商品受け入れ検査を行い、瑕疵があれば相応の措置を講じれば良いとも思われますが、実際には、簡単にはいかないのが現実です。検査の対象には、当然、品質の問題が含まれます。

したがって、「Inspection and Acceptance(検査と受領)」についての規定には、一般的に以下についての規定がなされることがあります。

Inspection and Acceptance(検査と受領)についての規定

  1. 検査について:検査の時期、内容、程度、方法、検査担当(「買主」、第三者、検査機関、「買主」と「売主」の合同検査)
  2. 検査結果の明示(証明書、レポート)
  3. 問題がある場合の通知方法と期間
  4. 検査で見つからない隠れた瑕疵の扱い
  5. 通知期間内に「買主」が瑕疵を報告しない場合の扱い等、商品に瑕疵があった場合の救済を定める上で重要です。

いずれも「買主」に有利になる規定の方法、「売主」に有利になる規定の方法があります。
なお、分野としては、膨大な内容になるため、この程度で留めます。

13. Claim and Remedy (クレームと救済)

上記、12. Inspection and Acceptance(検査と受領)とも関連しますが、「買主」の立場に立った規定方法、「売主」の立場に立った規定方法があります。いずれの立場も相手方に対するせめぎ合いで、例えば、クレーム提起期間について、「買主」の立場に立てば、この期間を長く設定することで、クレーム提起期間終了後に隠れた瑕疵が見つかっても、クレームの提起期間の規定にしばられないとか、「売主」の立場からは、「売主」に都合の良い、クレーム提起期間を定め、その後は、「買主」のクレーム提起の権利を失わせる等、さまざまです。

参考までに日本の商法では、「「買主」は、物品の受領後、ただちに検査を行い、瑕疵を「売主」に報告しなければならず、これを怠った場合、「買主」は「売主」を追及する権利を失う」また「ただちに発見できない瑕疵は、6ヵ月を最大限として延長できる」とあります。(商法528条2項)その他、「「買主」は、瑕疵を発見してから1年以内に権利を行使しなければならない」(民法570条(民法566条、但し書き準用))。

 14. Take or Pay(テイクオアペイ)

例えば、長期にわたる売買契約において、ある一定期間(例えば、四半期、半年)ごとに「買主」が引き取るべき最低数量を規定し、引き取りがなされない場合でも、「買主」は、引き取りがなされた場合と同じ代金支払い義務を負うものとします。「買主」は、長期にわたる義務とリスクを負担することになります。プロジェクトファイナンスにかかわる場合が多く、さまざまバリエーションが存在します。

 15. Right of First Refusal(ファーストリフューザル)

長期売買契約における「買主」に有利な権利を確保することを目的とします。具体的には、「売主」において、商品や製品の生産と供給に余裕が生じた場合、「買主」に優先的にオファーを行い、「買主」に購入する機会を設けます。「買主」は、この権利を行使するか、しないかの権利を与えられます。

 16. Hardship (ハードシップ)

「長期契約における経済・社会環境の変化、商品や製品の陳腐化等の事件が生じた場合、相変わらず、最低数量の購入等、当初の契約内容を維持するのではなく、いずれかの当事者が申し出て、契約条件の見直しを協議する」という内容です。

以上、駆け足で、英文契約書による売買契約の一般的な構成を見てみました。いずれも「売主」と「買主」の間の利益の調整方法という見方もできるかもしれません。

先々、機会があれば例文などを作成して、さらに具体的に見てゆきたいとおもいます。

参考図書

ビジネス法律英語辞典(日経文庫)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

法律英単語(自由国民社)その他

 

 

英文契約書の売買契約 (その1)

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英文契約書による売買契約は、当然のことですが、国際間の物品の売買である貿易取引です。一例として、英文売買契約を翻訳する際、貿易取引にかかわり、現在、最も広く採用されている国際ルール「*インコタームズ(Incoterms)」、や「**改正米国貿易定義」、「***U.C.C」等に基づいた、代表的な条件である「FOB」、「CIF」、等の一定の理解なども必要です。契約書翻訳の観点から見てみます。

(*International Rules for the Interpretation of Trade Terms:貿易条件の解釈に関する国際規則として、1936年制定以来、改訂を重ね現在に至る。**Revised American Foreign Trade Definitions, 1941:1941年改正米国貿易定義。***U.C.C-Uniform Commercial Code:米国統一商法典。ルイジアナ州を除く*49州で使用されている{*ルイジアナ州は部分採択}。)

一般に、貿易取引は、「FOB契約」、「CIF契約」に分けることができます。(「FOB」が「Free on board」、「CIF」が「Cost, Insurance, Freight」であり、その他、例えば、「インコタームズ」に基づく「FOB契約」の場合、売主の商品の引き渡し義務は、売買契約に定めた船積み港で、売主が本船(Vessel)に商品を積み込んだ時点で完了することはご存じのとおりです。ただし、改正米国貿易定義、U.C.Cでは、「FOB」で、「インコタームズ」によるものと同じ条件を示すには、FOB Vessel (Port of Shipment)となります。これは、改正米国貿易定義、U.C.Cには、「売主」による「買主」の納め込み渡しが含まれるためです。)

なを、これらについては、Web、書籍(入門書・専門書・学術書)等を通じて、多くの資料を容易に入手することができます。貿易実務に携わっている方々には、必要ないと思われますが、それ以外の方たちで貿易に興味のある方は、一度見ておくのも良いかもしれません。

英文売買契約書の基本的な条項の一例

したがって、ここでは、下記一覧に代表される、英文契約書による売買契約の構成とそれについての、ごくごく基本的な事柄に関する用語の簡単な確認に留めます。(今回、項目1から項目4までを後項で記載します。)

  1. Sale and Purchase (売買の合意)
  2. Specifications(仕様)
  3. Sample (見本)
  4. Price (価格)
  5. Quantity (数量)
  6. Delivery (受け渡し)・Shipment (船積み・引き渡し)
  7. Payment (支払)
  8. Insurance (保険)
  9. Title and Risk (所有権と危険負担移転時期)
  10. Warranty (保証)
  11. Intellectual Property (知的財産)
  12. Inspection and Acceptance(検査と受領)
  13. Claim and Remedy (クレームと救済)
  14. Take or Pay(テイクオアペイ)
  15. Right of First Refusal(ファーストリフューザル)および
  16. Hardship (ハードシップ)

(実際、実務で契約書を作成していた頃、物品売買契約にも携わったこともりますが、多くは、入札書(RFP)を含むサービス契約を手掛けていました。但し、物品とサービスの違いはあるにしても、契約という概念は、同じです。個人的感想ですが、物品を扱う売買契約は、契約入門という観点からは、大枠において入りやすいとい感じがしました。もちろん、物品の引き渡しに伴う危険負担の移転等、すぐに思い浮かぶだけでも、これでもかというほど知る必要のある事柄はあり、かつ奥が深いものですが。)

 1. Sale and Purchase (売買の合意)

売買契約の成立の前提になります。以下、簡単な例文を作ってみました。

「Seller agrees to sell to Buyer and Buyer agrees to buy from Seller, subject to ………………….」とか、「The Seller agrees to sell and deliver to the Purchaser and the Purchaser agrees to buy and take delivery from the Seller………………….」など、大体は定型的な文章を多いようです。

 2. Specifications(仕様)

商品の仕様と品質についての条件を定めます。特に、商品の検査についての取り決めが重要です。商品の仕様と品質については、添付書類(例:Schedule, Appendix, Exhibit等)に別途記載して、ドラフィティングまたは交渉の段階、および契約締結後その内容について弾力的に取り決めや、変更を行えるようにするのが一般的です。

3. Sample (見本)

実際に引き渡される商品は、いかなる瑕疵もなく、すべてにおいて見本と同じものでなければならないことを規定します。

「The Products to be delivered hereunder shall be free from defects and faulty materials and correspond with any sample and conform to any description, instructions, specifications and other conditions agreed between the parties 」(本契約に基づき引き渡される製品は、瑕疵がなく、材料にも欠陥がなく、、サンプルと一致し、説明書、指示書、仕様書および両当事者間で合意したその他の条件に準拠する(抄訳))

 4. Price (価格)

いうまでもなく、商品の価格(代金)を規定します。一般に、価格の設定方法は、スポット契約、売買基本契約、長期契約等で規定方法が異なります。当然のことながら、価格の設定基準には「FOB」、「CIF」がかかわってきます。この場合、これらが「インコタームズ」による、よらない等があります。その他、前後しますが、売買基本契約、長期契約等の場合、当初期間(初年度)の価格または基準価格を規定し、一定期間ごとに価格変動要因を考慮して価格を見なおし、再設定するなどの方法にあります。もちろん、価格を固定し(Fixed Price)市場価格の変動にかかわらず、価格を変更しない場合もあります。その他、商品の価格については、為替の変動も重要な要素です。

項目5から項目14は、こちらから(売買契約(その2)

参考図書

ビジネス法律英語辞典(日経文庫)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

法律英単語(自由国民社)その他

英文契約書の用語、構文(その13)「CreditとLoan」 

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CreditとLoanについて

「Credit」と「Loan」は、いずれも英文契約書に限らず、ビジネス・金融等の分野で良くみかける言葉です。「Credit」と「Loan」も、すでに日本語として使われているため、いずれもなじみのある言葉です。

「Credit」

辞書をひくと、例えば、名詞としての「Credit」の意味は、「信用、名声、評判、掛け(売り)、クレジット、信用貸し、貸方」であり、動詞としての意味は、「信用する、〈ある金額を〉〔人の〕貸し方に記入する(to)」などの意味が示されています。

英文契約書における「Credit」の意味としては、会社と商品に対する「信用」等の意味でつかわれる場合もありますが、多くは「掛け(売り)」とか「貸し方に記入する」等のニュアンスを含んで、金銭の支払いに関して書かれた部分に使われます。経験的には、英文契約書の内容が「金銭の支払いに関して書かれた部分」に来ると、何故か抽象的で分かりにくく書かれていることを目にする機会があります。この場合、そこに記載されている「Credit」の意味を解釈する時は、たいてい、意味を確定するのに、一呼吸置いてから訳出します。(注意して訳出する必要があるからです。)

ここで、「Credit」についての英語独特の概念を思い出してみたいと思います。

例えば「売買契約」で、AがBに商品を販売する場合、AからBに商品が引きわたされた時点で、Aは、Bに対する売掛金(債権)を有し、BはAに対する買掛金の支払い義務(債務)を負っています。A(債権者)とB(債務者)の立場は、当然異なります。

しかしながら、この状況-A(債権者)とB(債務者)双方の立場を表すのに「Credit」が使われます。

この売買代金は、A(債権者)の立場では、「my credit to B」、一方、B(債務者)の立場では、「my credit from A」となります。

売買代金に対するB(債務者)の立場は、「my debt」としてもよさそうなものですが、多くは、双方の立場を表すのに「Credit」が使われます。

英文契約書の用語(単語編)No.16に説明を追加しました。

「Loan」

「Loan」=貸付金も、同様の概念が適用され、AがBにお金を貸した場合、A(債権者)の立場は、「my loan to B」、B(債務者)の立場は、「my loan from A」とすることができます。もちろんは、「B」は、「A」に対する「borrower」であり、「A」は、「B」に対する「lender」です。その他、信用を供与する場合、信用を供与する側(与信者)からは、「give a credit」、信用を供与された側(被与信者)からは、「get a credit」となります。

 英文契約書では、この「Credit」という言葉がとうとつに出てくることがあり、その場合は、すべてとは言えないまでも、このあたりを押さえておくと、前後の関係からその意味を理解する場合の助けになるかと、思われます。

ちなみに、「Credit」ついては、冒頭にならべた辞書にある意味の1つで、「Credit」が動詞で使われた場合に「貸し方に記入する」と記載しましたが、このまま、これを採用して訳すことは、まず、ありません。例えば、売買契約の場合など、その契約書を売り手が起草したのか、買い手が起草したのかなど、前後関係、文脈、その他もろもろの事情を踏まえて、適宜、適切な訳を施します。

参考図書:

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

研究社新英和辞典(研究社)

The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)

トレンド日米表現辞典(小学館)

英文契約書の用語、構文 (その12)「on an as is basis、jointly and severally、due and payable、provided, however, that、without prejudice to、except for」 

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on an as is basis、jointly and severally、due and payable、provided, however, that、without prejudice to、except forについて

1. 「on an as is basis」

売買契約における商品の引き渡しに関して、よく目にするのが「on an as is basis(現状あり姿により/現状あり姿のまま)」という表現です。文字通り、商品/不動産等をそのままの状態で引き渡すことを意図しています。この場合、引き渡しの対象となる商品/不動産等の状態(品質)に何らかの欠陥(瑕疵)があっても、責任を負わない旨の取り決めです。

アメリカ合衆国の連邦法ではないものの、実質的にアメリカの商事法とされるアメリカ統一商事法典(Uniform Commercial Code; UCC)の黙示の保証責任のうち、商品性(merchantability)の保証責任(売主が商人である場合に黙示的に生ずる保証責任として、販売した物品が、そのような物品が使用される通常の目的に適するものであることを主として保証する)を明示的に排除することを意図するとされます。(この場合、契約に商品性という用語を使用した特定の排除文言を明瞭に示すことが必要とされます。詳しくは、「アメリカ統一商事法典」について書かれた専門書などごらんください。)

2. 「jointly and severally」

「jointly and severely(連帯して)」の意味(連帯保証(jointly and severely guaranty)をあらわすものと)として使われます。

「The lessee and the guarantor shall be jointly and severally liable for such damages.」

賃借人保証人は、当該損害賠償に対して連帯して責任を負う。)

この文言が使われた場合、例えば、保証条項において、「連帯して」の当事者である債務者と保証人に対して、債権者は、債務の弁済期日に債務者と保証人のいずれに対しても、債務の全額返済を求めることができます。

3. 「due and payable」

「支払期限が到来して支払義務が発生している」状態です。「be due and payable」で「支払期日が到来している」などとされます。そのほか、支払に関してのいろいろな取り決めで使われます。2つほど例文を作ってみました。

支払方法を指定する-「The payment due and payable under this Agreement shall be made in Yen 」(本契約に基づき支払期限が到来した支払いは、………………….)

支払日を指定する-「The fee will be due and payable thirty (30) days before the commencement of the service」(料金は、サービスを開始する30日前に支払うべきものとする。)

3. 「provided, however, that」

いわゆる「ただし書き」として、多く使われる慣用句です。

「provided, however that this shall not prejudice the rights of a third party.」

(ただし、第三者の権利を害することはできない。)

英文契約書に限らず、法律文書一般に多く使われます。

「A minor must obtain the consent of his/her statutory agent to perform any juristic act; provided, however, that, this shall not apply to an act merely intended to acquire a right or to be relieved of a duty.」(未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。)(民法)

4.「without prejudice to ~

「~の部分(toに続く言葉)が、害されることなく(なしに)/損なわれることなしに」の意味です。多くは、「何かがなされる場合、一方当事者の権利((例:損害賠償請求権など)が害されることはない=一方当事者はその権利を放棄しない)等に使われます。

その他「Without prejudice to the generality of the foregoing,」(上記の一般性を損なうことなく、)のようにも使われます。

5.「except for ~/except that ~/except where ~/except upon  , unless  ~」いずれもある事柄「~の部分」を除外する場合に使われます。

「No amendment to this agreement may be allowed except in writing and signed by both parties.」(両当事者が署名した書面によらなければ本契約の修正は認められない。)

参考図書:

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

研究社新英和辞典(研究社)

英文契約書の用語、構文(その11)「will」、「shall」、「may」、「agree to」、「acknowledge that」など

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「will」、「shall」、「may」、「agree to」、「acknowledge that」の使い方

英文契約書で見受けられラテン語やフランス語などからの用語や固有名詞について、比較的目にする機会が多い用語をみてきましたが、「英文契約書における独特の用語」という観点から忘れていけないのは、「will」「shall」「may」などです。これらは、契約における当事者間の権利、義務を規定する際になくてはならぬ用語です。他の用語に置き換えることもできますが、権利、義務を規定する場合に一般的に使われます。英文契約書におけるこれらの各々の使い分け-どの言葉を、どのような状況で使うのか-をおおまかにでも理解することで、英文契約書にかかわるに際して、よりその契約の内容を理解する手助けになります。

また、これらの用語「will」、「shall」、「may」は、用法としては、非常に範囲が広く、契約にかかわらず、会話などでも日常的に使われますが、ここでは、英文契約書おける一般的な使い方に限ってみてゆきます。

 shall」について

辞書を見ると、「shall」のいろいろな用法が並んでいます。これらの用法の中の一つに、「命令・規定を表わして、~すべきである」という「shall」の用法があります。

一般に英文契約書では、多くの場合「義務」を規定する際に使用されます。たしかに「shall」の語源を見ると、「古期英語「義務がある」の意」と記載されています。

例えば、売買契約を想定して「The Seller shall deliver the products to the Buyer if… 」とすると、「売主は買主に対して、……………の場合、製品を引き渡すものとする」のように、「shall」を使い「義務」を規定しています。

もちろん、すでに述べたように英文契約書に限らず、上記の意味「~すべき」の意味を表すことに限っても、さまざまな文書や会話の中で日常的に使われます。

 その他、「権利」を規定する場合、「shall have right to~」のように使われることもあります。例えば、ライセンス契約を想定して、「Licensor and Licensee shall have the right to terminate this Agreement immediately if…」とすると、「ライセンサーとライセンシーは、以下の場合、直ちに本契約を解除する権利を有する。」となります。

will」について

英文契約書で使われる「will」も、一般的に「義務」を規定する際に使用されますが、一般に「will」を使用した場合の「義務」程度が「shall」に比べてやや弱いとされるようです。実際、個人的感想ですが、実務経験および翻訳の経験上からも、「will」を使用した場合の「義務」程度が「shall」と弱く、また、やや明確さに欠けるような気がします。

具体的には、「will」も「shall」も「義務」を規定するという点において変わりはないのですが、相手方が契約の草稿を作成した場合(または、相手方に特定の契約書のひな形ある場合、その他相手方の立場が強い場合など)、相手方の義務の記載には、その義務の内容により時として、「will」が用いられ、一方、こちら側の義務の記載には、ほとんどの場合、「shall」が使われているという具合です。当然、契約締結前の交渉の議題の1つなることもあります。草稿段階の契約書を交渉過程ごとに順次みてゆくと、同じ条項で「will」が「shall」に変わり、「shall」が「will」に変更されていることも目にします。いずれにしても基本的には、「will」が使われていても「shall」と同様に法的拘束力に変わりはないと思われます。

その他「will」は、英文契約書において、契約の内容やスケジュールを客観的に確認する場合に用いられることも多く見受けられます。例文を2つほど作ってみました。

The parties will mutually agree on a delivery schedule.

(両当事者は、相互に、各配送スケジュールに合意する。)

The inspection schedule will be arranged by mutual consultation between the parties.(検査スケジュールは、両当事者の協議により取り決める。)

may」について

英文契約書において、「権利(~することができる)」を規定する場合に一般的に使われます。「~することができない」を表すには、「may not」が使われます。(基本的に「can」、「can not」は使いません。)

 例えば、上記、「shall」について」で作った例文、「Licensor and Licensee shall have the right to terminate this Agreement immediately if:」は、Licensor and Licensee may terminate this Agreement immediately if:」とすることができます。

 その他

英文契約書において当事者間の権利、義務を規定する際に用いられるのは、上記のように「will」、「shall」、「may」が一般的ですが、義務を規定する場合、時として、頻度は少ないのですが、「must」が使われることもあります。個人的感想としては、「must」が使われる場合、その文章の前後関係と内容から、起草者が「shall」よりもその内容を強調したい部分に「must」を使用する傾向があるようです。

例えば、

Any modification or change to this Agreement must be in writing and signed by both parties.

英文契約書ではありませんが、以下のような例もあります。

The exercise of rights and performance of duties must be done in good faith.

(権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。)(民法)

Private rights must conform to the public welfare.

(私権は、公共の福祉に適合しなければならない。)(民法)

 その他当事者間の権利・義務を確認する表現として「agree to~(~に同意する/~に合意する/~を承認する)、agree that~(~ということに同意する/~ということに合意する/~ということを承認する)、acknowledge that~(~ということを承認する)」などがあります。「~」の部分に権利・義務の内容が書かれています。いずれも、ある(またはいくつかの)状況における何らかの(またはいくつかの)権利・義務を確認するような場合に使われることが多く、そのため文章としては、時として、複数の項目を列挙する等、長めの文章になる傾向があります。例えば、「acknowledge that:」(「両当事者」は、以下を承認する。)また、「The parties hereto agree and acknowledge that~(両当事者は、~に同意し、これを承認する。)などの形で使われることがあります。

参考図書

ランダムハウス英和大辞典(小学館)
カレッジライトハウス和英辞典(研究社)
研究社新英和辞典(研究社)
法律英単語ハンドブック(自由国民社)
日本法令外国語訳データベース

英文契約書翻訳時における固有名詞(人名、組織名、役職名等)について(その1)

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 契約書翻訳に際し、特に英文契約書の翻訳を行う際に、気配りが必要な事柄の1つが「固有名詞」のあつかいです。例えば、日本語から英語への翻訳(契約書、株主総会議事録、定款、その他法律文書、技術文書、ビジネス文書にかかわらず)の場合、すべての翻訳で人名については、一般的と思われるお名前でも「読み方」を必ず確認します。また、地名、住所、建物等についても、「読み方」を確認することが必要です。

 次に、固有名詞に関して、気配りが必要なのは、「組織名」と「役職名」です。

 同じ役職名でも、例えば、「最高経営責任者」=「CEO(Chief Executive Officer)」等、一般的に流布している役職名もありますが、同じ役職名でも、辞書等により、異なる場合が多く見受けられます。例えば、「専務取締役」は、「Managing Director」が使用される場合が多いようですが、「Executive Director」、「Chief Director」等と表記されることもあります。また、「常勤」と「非常勤」についても、例えば、「常勤」=「Permanent」、「Full Time」等があります。一例をあげると、「常任監査役」は、「Permanent Auditor」、「Standing Auditor」、「Statutory Auditor」、「Full Time Auditor」等さまざまです。「常任監査役」と同じような意味で用いられる「常勤監査役」は、「Full Time Auditor」または「Standing Statutory Auditor」とされます。

 また、組織により、役職名について内部的に固有の英文名称を策定している場合があります。一例として「Supervisor」という役職名が記されていたため、「上司」もしくは「監督者」の意味合いで考えていたところ、その組織内では、「係長」という正式名称が内部的に定められているとのことがありました。「係長」=Chief、Section Chief等の場合が多く、また、「Supervisor」それ自体を独立したある職位の名称として使う場合もあるようです。

 同様に部長、課長という職位の名称についても、「部長」=Manager, General Manger, Division Chief, Director, Director General, Head of Section, Head of Division等があり、「課長」=Section Chief, Chief of Section, Manager, Section Manager等々、いろいろな表記があり、また、組織ごとに異なります。

 「組織名」でも、「部」を例にとると、「Division」、「Section」、「Unit」、「Department」等、組織により、任意にその組織内において適切と思われる語が使用されています。

また、英語から日本語への場合も、同じ単語で複数の訳がある場合があります。このように、「組織名」、同じ名称でも「役職名」は、各企業、組織により、異なります。

 役職名については、先入観をもって接するのは禁物のようです。人名、組織名、役職名については、翻訳に際して、確認することが原則です。

例文に訳文が付いている場合、それらの訳文は暫定訳(法律文を除く)です。
本ブログの内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。

弊社では、豊富な経験と知識に基づき原文に忠実かつ適格な翻訳を適正価格でお届けします。英日翻訳、日英翻訳のいずれにも対応しております。また、お客様によるAI翻訳の校正も行っております。

参考図書

カレッジライトハウス和英辞典(小学館)

New Japanese English Dictionary(研究社)他

英文契約書の用語、構文(その10)「inter alia」、「per annum」、「pari passu」

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 「inter alia」、「per annum」、「pari passu」について

英文契約書で見受けられラテン語やフランス語などからの用語には、様々な言葉あり、いつくかの言葉について見てきました。今回は、「inter alia」、「per annum」、「pari passu」の意味と使いかたをざっとみてみたいと思います。

1. 「inter alia」とは

ラテン語で「among other things=その他のものと一緒に」の意味です。使われ方としては、ある事柄が適用される状況を例示的に列挙する文章において、例示した内容がすべてではないこと明示するために使われます。すなわち、例示的に列挙した事例以外の状況が発生した場合に、ある事柄の適用を、列挙した事例のみに限定されることを防ぐ目的があります。この用語は、以前書いたことがある「including, but not limited to/including without limitation」などで代用できます。経験的には、「including, but not limited to」または「including without limitation」が一般的なようです。

「Confidential information may include, but is not limited to; (i) ABC, (ii) EFG, (iii)HIJ and (iv) KLM.」(機密情報とは、以下を含み、これらに限定されないものとする。= 機密情報とは、ABC、EFG、HIJおよびKLMを含み、これらに限定されないものとする。)

2. 「per annum」とは

ラテン語で「per year=1年あたり」の意味です。英文契約書のお金に関する記述内容に関して多く見受けられます。簡単な例文を作ってみました。

「The rate of such interest shall be 5% per annum.」(当該利率は年5%とする)。これは、

「The rate of such interest shall be 5% per year」と置き換えられます。

「Unless the parties otherwise manifest their intention with respect to a claim which bears interest, the rate of such interest shall be 5% per annum.」(利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。)(民法)

お金に関する事柄でも、特に、金利のついての記述に多く使われます。

3. 「pari passu」とは

ラテン語の「同じ順位で」、「平等に」の意味です。例えば「pari passu clause」=パリパス条項と称される条項において、ある債権者が他の債権者と当該債権の回収について同じ順位を持つことに合意する場合などに使われます。その他株式、金融等の契約書においては、なくてはならない用語です。例文を作ってみます。

「Newly issued Ordinary Shares rank pari passu in all aspects with all other existing Ordinary Shares」 (新たに発行した普通株は、すべての面においてその他すべての既存の普通株と同格である。)

参考図書
The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)
法律英単語(自由国民社)他

英文契約書の用語、構文(その9)「Force Majeure」

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1.「Force Majeure

英文契約書で見受けられラテン語やフランス語などからの用語の中で、良く眼にするものの一つに、フランス語の「force majeure」があります。いわゆる「不可抗力」と訳されるもので、これには、戦争、暴動、ストライキ等に代表される「人的災害」と政府機関の命令等、および地震、台風、洪水、水害、竜巻等の「自然災害」を含みます。「フォースマジュール」として日本語にもなっています。契約書翻訳の視点からの簡単な説明です。

2.「Force Majeure」の定義

英文契約書の中では、当事者に責任のない(当事者の管理に帰せられない、当事者の支配の範囲を超えた)理由-すなわち上記の「不可抗力」事象により、契約の履行ができなくなった、または遅延した等の状況下において、不可抗力事象が発生した場合の相手方への通知義務、当事者に対する免責の範囲、免責方法等が、不可抗力の定義、不可抗力の期間等とともに、「Force Majeure」(または時として「Force Majeure Event」)というタイトルを持つ条項にこれらの内容が記載されています。(「Force Majeure」を定義条項の中に定義する場合もあります。以下に例文を作成してみました。)

「Force Majeure means any event caused by occurrences beyond a party’s reasonable control, including, but not limited to, acts of God, fire or flood, earthquake, war, terrorism, labor dispute, pandemic, system malfunction, governmental regulations, policies or actions enacted or taken subsequent to execution of this Agreement, or any labor, telecommunications or other utility shortage, outage or curtailment.」

(不可抗力とは、天災、火災もしくは洪水、地震、戦争、テロ、労働争議、流行病、システムの機能不良、本契約の締結後に制定された、もしくは講じられた政府の規制、方針もしくは法的措置、または労働、通信もしくは他のガス電気水道等の公共事業の供給不足、供給停止もしくは供給の削減を含み、これらに限定されない、当事者の合理的な管理能力を超えて発生した事象を意味する。)

(この例では、不可抗力事由を列挙しながら、「including, but not limited to,」の構文を列挙した事由の前に置いて、列挙した事由に限定されないことを明示的に示しています。)

「Force Majeure」という用語は、多くはまず、上記の不可抗力発生時の規定を記載した条項のタイトル(不可抗力条項=Force Majeure)として使われるようです(当然、用語「force majeure」が文中に記載されることもあります。)。

3.「Force Majeure」に相当する事象(不可抗力事由)

不可抗力条項において、何を以って不可抗力とするか(不可抗力事由)の定義は、多くの場合、上記の例文ように「人的災害」と政府機関の命令等および「自然災害」などの具体例を列挙しますが、その契約において不可抗力により生じた「不履行」、「履行遅延」、および「不可抗力の期間」等についての対応は、個別の契約により異なります。また個々の契約においては、上記の「不可抗力」事由の他に、その契約固有の「不可抗力」事由、例えば、工場が被った災害(爆発、火災等)、交通途絶、港湾封鎖、政治的・社会的混乱、国家の分離・独立、これらが金融機関の及ぼす影響等、その他諸々の事由をその契約に応じて記載します。また、不可抗力の発生に関する第三者機関の証明の提出義務などが追加されることがあります。

「不可抗力の期間」が不可抗力条項にあらかじめ規定して期間を超えて継続した場合の「契約解除」を行う場合は、その旨の規定を設けることが必要とされます。(不可抗力に起因する契約解除に関する規定を設けていない英文契約書も多くあります。)

例えば、次のような例文を作成してみました。「If the Force Majeure condition continues for 90 days or more, either party may terminate this agreement upon written notice to the other party」

(不可抗力の状態が90日以上継続する場合、いずれの当事者も相手方に対する書面の通知により、本契約を解除することができる。)

4.「Force Majeure」における免責

一般には、「不可抗力」の事態が発生しても、支払に関する債務は、免責されないことになっているようですが、実際に「不可抗力」の事態が発生した場合は、(場合により債務の履行が一定期間猶予されても)、支払がなされないこともあり、また、国ごとの債権に関する法律の違いなどから、当然、債務の不履行、履行遅延に関する紛争が生じることも多いとされます。また、支払に関する債務の免責以外にも、「不可抗力」の事態が発生した際の契約の履行義務に関する責任の範囲、その他を詳細に規定する場合もあります。(このあたりについては、専門書をご覧ください。)

以下に例文を作成してみました。

「Neither Party hereto shall be liable to the other party for failure to perform its obligations hereunder due to Force Majeure.」

(本契約のいずれの当事者も、不可抗力により、本契約に基づくその義務の不履行に対して、相手方に責任を負わせることはないものとする。)

「Neither party is responsible for failure to fulfill any non-monetary obligations due to events beyond his or her reasonable control」

(いずれの当事者も、その合理的管理の範囲を超えた事由に起因する非金銭的債務不履行に対する責任を負わない。)

(なを、英文契約書に不可抗力条項がない場合は、当事者間の話し合による解決のほか、ウィーン売買条約(日本では2009年8月発効)の適用が可能性としてあります(同条約の「損害賠償」、「免責」および「解除の効果」等-同条約の規定では、契約の不履行が不可抗力によることが証明できれば免責を受けられます。)。ただし、相手方の国が同条約に未加入であったり、契約に同条約を適用していない場合や、別途準拠法を定めている場合は、同条約は適用されません。)

また、ある事象が当事者の管理(または支配)範囲を超えた事由による場合でも、それらを不可抗力とはみなさない旨をあらかじめ定義する場合もあります。これについて以下に例文を作成してみました

「Neither economic downturn nor significant decline in demand for the Products manufactured by Party A shall be Force Majeure.」

(いかなる経済の悪化および当事者Aの製品の需要の深刻な低下も不可抗力としない。)

「Raw material or labor shortages shall not be considered as force majeure events.」

(原材料または労働力不足は、不可抗力事由としない。)

特に、「Neither economic~be Force Majeure.」の場合、例えば、代理店契約などで、販売数量、販売額等に関する契約上の義務がある場合など、このような取り決めは厳しいものがあります。

5.「Force Majeure」と「Act of God

「不可抗力=Force Majeure」という概念に関して、英語には、「Act of God」(辞書では、不可抗力、天災等の意味)がありますが、「Force Majeure」のように、不可抗力条項のタイトルとして使われることは、あまり見受けられず、タイトルを「Force Majeure=不可抗力条項」として、その条項の中で「天変地異」の1つとして「Act of God」を使用しているようです。理由としては、諸説あるようですが、世界には、様々な国々があり、特に宗教的配慮から「Act of God」よりも「Force Majeure」のほうが受け入れやすく、一般的に使用されるようになったという説もあるようです。“2.「Force Majeure」の定義”で作成した例文には、「including, but not limited to, acts of God, fire or flood, earthquake, ~」と「earthquake=地震」を入れましたが、経験的には、「earthquake」がない場合も多く、地震が起きた場合「acts of God=天災」の1つとして捉えるようです。

5.「Force Majeure」条項の重要性

英文契約書で「Force Majeure」条項を初めて目にしたときは、正直、漠然とした認識でした。どちらかと言えば、海外での紛争、災害、政治的な動きを想定していました。

しかし、東日本大震災により、多くの生産ラインが停止に追い込まれ、部品供給の途絶により、実際に世界規模で多くの製造業が影響を受けたことは記憶に新しい事実です。この時、各関係機関、法律事務所等に対する「Force Majeure」に関する問い合わせの件数が相当数にのぼったとのことです。現在、日本に限ってみても、例えば、地震についてだけでも、南海トラフ、首都直下型、はては富士山噴火等、可能性がとりざたされています。

その意味で、「Force Majeure」条項の重要性は増していると考えられますが、一方、日本の民法では、損害賠償について「債務者は不可抗力をもって抗弁することができない。」(第419条第3項)と定められています。英文契約書における「Force Majeure」または「Force Majeure Event」は、なかなかに多岐にわたる奥深い事柄のため、多面的に考察する必要があります。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)

デジタル大辞泉(小学館)

法律英単語(自由国民社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

英文契約書の用語・単語

英文契約書の用語、構文(その8)「bona fide」

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 今回は、英文契約書で使われている「bona fide」について見てみます。

「bona fide」の意味

英文契約書には、その元となる英米法がローマ法を色濃く継受している関係から、ラテン語やフランス語などからの用語が使用されていることがあります。前回、in lieu of「~の代わりに」、mutatis mutandis「準用する」、pro rata「比例して、案分して、割合に応じて」について述べましたが、引き続き、いくつかの例を契約書翻訳の観点から見てみたいと思います。今回は、「bona fide」の意味についてみてみます。

bona fide(善意の)」(多く使われる意味(訳し方)では)契約書の場合は、多くは、例えば、bona fide third party「善意の第三者」、bona fide user 「善意の使用者」、bona fide employee「善意の従業員」等の意味に使われます(このほかにも数多くあります)。

「provided, however, that neither the Parent, Surviving Corporation nor the Agent shall have received notice that such Certificate has been acquired by a bona fide purchaser.」

(但し、親会社、存続会社、または代理人は、当該株券が善意の買主によって取得されている旨の通知を受け取っていないことを条件とする。)

このbona fideという言葉は、辞書には、「善意の」というより、むしろ「誠実な、誠意の、真実の、真正の」(形容詞)「誠実に、真実に」(副詞)等として紹介されており、このような意味で使われる場合も多くあります。

「No bona fide pledgee or other holder of issued shares as collateral security shall be personally liable as a shareholder.」

(担保株式として発行された株式の正式な質権者またはその他の所持人が、株主として個人的責任を負うことはない。)などと使われることもあります。

「If the Parties are unable to resolve their dispute through bona fide negotiations, all disputes, controversies or claims arising out of this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance with the Rules of the Arbitration Institute of the Chamber of Commerce.」

(両当事者が、誠実な交渉による係争の解決をなし得ない場合、本契約から生ずるすべての係争、論争もしくは申し立ては、商業会議所仲裁裁判所の規則に基づく仲裁により最終的に解決される。

少し面白いと思った例は、bona fide leave「正式な休暇」と訳す必要がある例がありました。

なを、「善意の」という意味ですが、日本の法律の英訳を見ると、

「理事の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。」(民法)

No limitation on a director’s authority may be asserted against a third party without knowledge.

「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」(民法)

The nullity of the manifestation of intention pursuant to the provision of the preceding paragraph may not be asserted against a third party without knowledge.

前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。(会社法)

No limitation on the authority under the preceding paragraph may be asserted against a third party without knowledge of such limitation.となり、多くの場合において「善意」の意味を、without knowledge「知らなかった」を使って表す場合もあります。

そのほか、「善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。」では、A possessor in good faith shall acquire fruits derived from Thing in his/her possession.のように「善意」=「good faith」が使われている場合もあります。

なを、調べてみると、「善意取得」をBona Fide Acquisition(地球温暖化対策の推進に関する法律 )等もあり、Bona Fideが使われています。

ついでに、「善意」の反対の「悪意」について、日本の法律の英訳を見ると

「ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。」

provided, however, that the performance of the applicable obligation shall be void if the obligor has knowledge or is grossly negligent.

この場合、「悪意」をknowledge 「知っている」を使って表しています。

「法律用語辞典」を見ると、「善意」とは、「ある事実を知らないことで、悪意に対する」とあり、「日常用語とは異なる」と記載されています。なを、「ある事実を疑わしいと思っている場合も、占有の場合を除き、通常は善意にあたる」旨の記載があります。

そのため、「善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす」。では、

「If a possessor in good faith is defeated in an action on the title, he/she shall be deemed to be a possessor in bad faith as from the time when such action was brought.」

この場合は、「悪意」=bad faith (不誠実)とされ、「善意」=good faith(誠実)が使用されています。

同じ「善意」と「悪意」でも、訳出時の使い分け(どれを使うか)を行うには、文章(この場合は法文)の意味正確に把握する必要があり、このあたりが翻訳に際してのむずかしさ(日本語から英語、英語から日本語への翻訳を問わず)がある思うところです。

bona fideに関してざっと見るだけで終わってしまいました。詳しくお知りになりたい場合は、専門書をご覧になるのがよろしいかと思います。bona fide以外にも、いくつか見てみたいラテン語やフランス語などに由来する用語がありますが、次の機会にしたいと思います。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)