英文契約書の用語・単語

英文契約書の用語、構文「indemnify and hold someone harmless from」(その6)

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前回取り上げた「indemnify and hold someone harmless from」の続きです。今回は、「indemnify and hold someone harmless from」の意味や使い方について契約書翻訳の観点から簡単にみてみます。

売主「ABC Company (Seller)」と買主「XYZ Company (Purchaser)」間の売買契約における知的財産(例えば、特許、商標等)の保護に関して、「売主の立場」から、売主「ABC Company」が、「販売区域」における知的財産権の侵害に関する責任を負わない場合、例えば「ABC Company shall not be responsible for any infringement regarding patent, utility model, trademark, copyright, or other intellectual property rights in the designated sales territory (hereinafter referred to as “Territory”).」のように記載することがあります。

さらに踏み込んで、売主が「販売区域」における知的財産権の侵害に関する責任を負わないだけでなく、売主「ABC Company」が知的財産権の侵害に関して被った損失を補償する責任までも買主に負担させたい場合、文言、「indemnify and hold someone harmless」の形式(「~から(人)を補償しかつ無害に保つとか、迷惑を一切かけない; 補償する」等の意味)を使い、例えば「XYZ Company (買主) shall indemnify and hold ABC Company (売主) harmless against any infringement regarding patent, utility model, trademark, copyright, or other intellectual property rights in the designated sales territory (hereinafter referred to as “Territory”」とすることがあります。

当然のことながら、このことに関して、買主「XYZ Company」の立場に立って規定する場合もあります。

上記の、売主「ABC Company」と買主「XYZ Company」を入れ替えて、「ABC Company」(売主) shall indemnify and hold XYZ Company (買主) harmless against any infringement regarding patent, utility model, trademark, copyright, or other intellectual property rights in the designated sales territory (hereinafter referred to as “Territory”」とするだけで、売主は、「販売区域」において買主が被った知的財産権の侵害についての損失を補償する責任より広い範囲で負担します。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary、ビジネス法律英語辞典 (日経文庫)

(イメージは、高知県仁淀川の「にこ淵)

 

 

 

英文契約書の用語、構文「 indemnify and hold someone harmless」 (その5)

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1. 日本の契約書との違い

日本の契約書の違いについて 契約書翻訳の観点から概説します。

日本の契約書では、「本契約に定めなき事項については、甲乙別途協議してこれを定める」等の文章を良く見かけます。もちろん同様の表記が英文契約書でなされていることもあります。

以前にも触れたことがありますが、良く知られているように英文契約書は、書面重視です。その契約に関して、例外事項も含めてすべての事柄を可能な限り、規定し、文章化する傾向があります。

これは、1つには、英米法の「口頭証拠排除の原則(Parol Evidence Rule)」や「最終性条項あるいは完全合意条項(Entire Agreement)」の概念に見られる書面契約-書面の作成を成立の要件とする契約の考え方があるためと言われます。契約における当事者間の権利義務の関係が、かなり厳格に明確化される傾向があります。

契約書にある状況を記載する場合、同じことを書く場合でも、そこに使用されている文言や表見が異なると、その状況に関する権利・義務について、その意味があいまいになったり、明瞭になったり、厳格になったり、その範囲が限定されたり、あるいは、拡張されたり、といったことが起こります。

2. 具体例

売主「ABC Company (Seller)」と買主「XYZ Company (Purchaser)」間の売買契約における当事者間のある知的財産権について記載する場合の一例を作成してみます。

ABC Company shall not be responsible for any infringement regarding patent, utility model, trademark, copyright, or other intellectual property rights in the designated sales territory (hereinafter referred to as “Territory”).

この場合、売主「ABC Company」は、単に「Territory」=「販売区域」における知的財産権についての侵害に関する責任を負わないことになっています。

ところで、英文契約書で良くみかける文言「indemnify and hold harmless」があります。(「indemnify and hold someone harmless」の形式で使われます)辞書を見ると、ざっくりと「~から(人)を補償しかつ無害に保つとか、迷惑を一切かけない」等の意味が書かれています。「hold someone harmless」の部分が単独で使われる場合もあります。これも、「英文契約書における独特の用語、構文」の一例です。

上記の例に、この表現「indemnify and hold someone harmless」を使用してみると、

XYZ Company (買主) shall indemnify and hold ABC Company (売主) harmless against any infringement regarding patent, utility model, trademark, copyright, or other intellectual property rights in the designated sales territory (hereinafter referred to as “Territory”).

となり、買主「XYZ Company」による売主「ABC Company」に対する免責がより明確化され、売主「ABC Company」は、単に「Territory」=「販売区域」における知的財産権についての侵害に関する責任を負わないだけでなく、特に、hold ABC Company harmlessを使用したことで、買主「XYZ Company」は、売主「ABC Company」が知的財産権についての侵害に関して被った損失を補償する責任までも負担することが明文化されます。

これは、売主「ABC Company」の立場に立つ規定です。

当然、逆の場合、買主「XYZ Company」の立場に立った規定の仕方もあります。このあたりは、次で考えて行きたいと思います。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)、Trend (小
学館)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary、英文契約書の書き
方 (日経文庫)、 ビジネス法律英語辞典 (日経文庫)

英文契約書の用語、構文 「including, but not limited to、subject to等」(その4)

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英文契約書(法律文書)特有の用語・言い回し、いわゆる、リーガルジャーゴン(Legal Jargon)について簡単に述べてきましたが、今回は、慣用句的なものについて簡単に触れてみます。なを、近年、この分野については、優れた専門書も見受けられます。体系的な知識を得たい場合は、専門書を一読されるのが良いと思います。ここでは契約書翻訳の観点から概説します。

今回、例として挙げる「including, but not limited to / include, but is not limited to」または「including without limitation」、「subject to」、「due and payable」、「indemnity hold harmless」 は、英文契約書中でも慣用句的に多く使用されるもののいくつかです。以下に、いくつかの例文を作成してみました。

a.「including, but not limited to / include, but is not limited to」または「including without limitation /including, without limitation 」他

これらは、「~を含み、これらに限定されない」または単に「~等」などと訳されます(訳者により、相違しますが)。

いずれも、ある事柄が適用される状況を例示的に列挙する文章において、例示的に列挙した事例以外の状況が発生した場合に、ある事柄の適用を、列挙した事例のみに限定されることを防ぐ目的です。 例:Confidential information may include, but is not limited to; (i) ABC, (ii) EFG, (iii)HIJ and (iv) KLM. (機密情報とは、以下を含み、これらに限定されないものとする。= 機密情報とは、ABC、EFG、HIJおよびKLMを含み、これらに限定されないものとする。)

例:       The Company shall comply with all applicable laws, rules, statutes, ordinances, and regulations, including without limitation those dealing with consumer transactions.

b. 「subject to」

通常、「~を条件とする」ですが、文章の冒頭、途中、最後で使用します。

いろいろな使い方ができる反面、(日本語にする場合)訳しにくいことがあります。辞書を見るとわかるように「~を条件とする」の他に「~より」、「~に従い」その他、いろいろな言い回しがあります。

例:Subject to the provisions of Section XX of this Agreement, the term of this Agreement shall commence on the Effective Date hereof. (本契約の第21条の条項に従い、本契約の期間は、「発効日」から開始する。) 例:Subject to the termination provisions of Article XX of this Agreement, the term of this Agreement shall commence on the Effective Date and shall remain in effect for three (3) years. (本契約の第XX条の解除規定により、本契約の期間は、「発効日」から開始し、3年間引き続き有効とする。)

例:Renewal of this Agreement shall be subjected to the written agreement of parties hereto. (本契約の更新は、両当事者間の書面による合意を条件とする。)

例:if the obligor has become subject to the ruling of the commencement of bankruptcy procedures, (債務者が破産手続開始の決定を受けた場合、) この場合の「subject to」は、~にさらされている、~に処されている、~を科されている等の用法で、「subject to criminal proceedings」(刑事訴訟を受けている)等、いろいろな場面でつかわれます。

以上、「リーガルジャーゴンの慣用的表現」について簡単に見てみました。なを、 冒頭に記した「due and payable」、「indemnity hold harmless」 につていは、あらためて見て行きたいとおもいます。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)、Trend (小
学館)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary、英文契約書の書き
方 (日経文庫)、 ビジネス法律英語辞典 (日経文庫)、英文契約書の書き方(日経文庫)他

英文契約書の用語、構文「thereof, thereafter,therein, thereto等」(その3)

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英文契約書で使用される「リーガルジャーゴン」について、契約書翻訳 の観点から概説します。

1. thatにかかわるリーガルジャーゴン

前回、英文契約書(法律文書)特有の用語・言い回しの中から、いわゆる、リーガルジャーゴン(Legal Jargon)と称される用語の内、多く使用されることが多い、「hereto」、「hereof」、「herein」、「hereby」等について書いてみました。これらは、もともとが、「this」の意味を持っています。「this」と比較される言葉として、「that」があります。英文契約書で、「hereof」、「herein」、「hereby」等とともに、頻繁に使われるのが、この「that」の意味を持つ、「thereof」、「thereafter」、「therein」、「thereto」、「thereby」等です。

(ちなみに基本的には「this」は、近くにあるもの(人)を指して「この」、「that」は、離れているもの(人)を指して「その」「あの」の意味があります。)

2. 注意すべきこと

注意することは、「there―」は、前にある言葉や文章を受けて使われるため、どの言葉や文章を受けているのかを確認する必要があります。そのため、自分で英文契約書を作成する場合、なれないうちは、一般的な平易な表現を使うことが良いと思われます。

3. 例文

いくつかの例文を作ってみました。

This Agreement constitutes the entire agreement of the parties with respect to the subject matter of this Agreement and supersedes and replaces all written and oral agreements in respect thereof.

この場合、「thereof」は、前にある「This Agreement」を受け、「 in respect」とつながり「in respect thereof」=「in respect of this Agreement」=「本契約に関する」の意味となります。

(本契約は、本契約の主題に関して各当事者の最終的合意を構成し、本契約に関するすべての書面および口頭による合意に優先し、これらに代わるものとする。)

The effective term of this Agreement shall be the one (1) year period from MM DD 20XX; provided, however, that, if neither of the parties hereto notifies the other party, in writing, of its intent to terminate this Agreement at least six (6) months prior to the expiration of the term hereof, this Agreement shall be renewed for another one (1)-year period and the same shall apply thereafter.

「本契約の有効期間は、200XX年XX月XX日から1年間とする。ただし、本契約の両当事者のいずれも、本契約の期間に満了の少なくとも6ヵ月前に、本契約を解除したい旨を書面により相手方に通知しない場合、本契約は、さらに1年間更新され、その後も同様とする。」

「thereafter」は、辞書にあるように、そのものズバリ「その後(は)」、「それ以降」等となります。

なお、「the parties hereto」と「the term hereof」は、それぞれ「the parties to this Agreement」、「the term of this Agreement」となります。

From the Effective Date and thereafter at all times during the Term, Licensee shall provide and maintain insurance as described in Exhibit A attached hereto and made a part hereof.

「発効日とその後の期間中常に、ライセンシーは、本契約に添付の別紙A(Exhibit A)に記載され、本契約の一部である保険を提供し、維持するものとする。」

If the Premises are totally damaged and are thereby rendered wholly untenantable,

「thereby」=「それにより」、「その結果」、「従って」の意味があります。

この場合、「thereby」は、前にある文章「If the Premises are totally damaged」を受けて、以下のような意味になります。

(本物件が全壊し、また、それにより、全体的に賃貸に適さない場合、………………..)

This Agreement will be governed by and construed in accordance with the laws of the State of California and the federal U.S. laws applicable therein, ………………

「therein」=「その中に」、「その場所に」、「そのときに」等の意味があります。

この場合「therein」は、「その場所において」の意味で使用され、「カリフォルニア州法および同地で適用される米国連邦法に準拠し、解釈されるものとする。」となります。

上記の例は、準拠法条項=契約の解釈のもととなる法律を規定する条項です。

4. 準拠法

準拠法については、契約の当事者間において、各当事者が自国の法律を準拠法とすることを主張するのが一般的ですが、双方の力関係で決定される場合が多く、また、第三国の法律を準拠法として選択する場合など、様々です。

特に、知的財産権(特許、商標、その他)の登録に関する内容を持つ契約では、登録が行われる国の知的財産権に関する法律、会社設立、M&Aに関連する契約の場合など、それらの行為が行われる国の会社法、証券取引に関する法律等が当然に適用されます。

知的財産権に関する法律では、一応、ベルヌ条約(The Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works)があり、ベルヌ条約に加盟していなくても、世界貿易機関(WTO)加盟国であれば、ベルヌ条約の主要な部分を順守する必要があります(実務的には相当複雑で、色々な問題が起きていますが)。

会社設立、M&Aの場合、適用される会社法、証券取引に関する法律等では、国により、例えば、「会社設立」という同じ種類の行為をするのでも、それに対する規定が日本と異なる場合があり-「時として、ある国の商慣行や言葉(または法律用語等)の概念(意味)が、世界的な商慣行や言葉(または法律用語等)の概念(意味)と異なり、その国独特のものとして存在するなど」-、注意が必要なことがあります。

5. 平易な表現でも可

すでに述べていますが、なれないうちは、一般的な平易な表現を使うことをお勧めします。

リーガルジャーゴン(Legal Jargon)についての内容から、それてしまいましたが、次は、英文契約書における独特の構文について、契約書翻訳の観点から触れてみたいと思います。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社)、 コンパクト六法(岩波書店)、Oxford Dictionary of English、英文契約書の書き方 日経文庫、 ビジネス法律英語辞典 日経文庫、他

 

英文契約書の用語、構文「Legal Jargonについて」(その2)

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1. 英文契約書の独特の用語

英文契約書を読むと、以下の例のような、通常、あまりみかけない用語や構文が眼に入ってきます。これらを契約書翻訳の観点から概説します。

“witnesseth”, “whereas”, “whereof”, “thereof”, “hereof”, “hereby”, “indemnify and hold harmless”, “without prejudice to”, “represent and warrant”, “subject to”, “implied warranty of fitness”, “as is basis”, “pari passu”, “execution of this Agreement”,  “attorney in act”, “covenants and agrees”, “escrow”, “take or pay”, “most favored customer”, “con-sequential damages”, “in lieu of”, “mutatis mutandis”。

いわゆる、リーガルジャーゴン(Legal Jargon)と称されるもので、これらはその一部です。これが使用されるようになった経緯は省きますが、これらの用語は、英文契約書(法律文書)特有の用語・言い回しの一部となり、これが英文契約書のわかりにくさを生じる原因の1つになっているとも考えられます。これは、契約社会とはいえ、時として英米人にとっても、わかりにくさを生じることがあるようです。

余談ですが、実務で英米人と共に英文契約書のドラフティングを行っていた頃、作成した、英文契約書の一文を巡って、その解釈について、米国人弁護士も交えて様々な意見が飛び交うことがよくありました。

2. わかりにくいとされる英文契約書

本来、契約書法律文書は、誰でもその内容を理解できるもの(明確に解釈可能なもの)として作られることが理想であり、そうあるべきです。ただし、現実には、長年の習慣やその他の理由で、相変わらず、英文契約書の多くは、「わかりやすさ」とほど遠い内容が多く見受けられます。米国でも、1970年代に一般人を保護する目的で「契約書をわかりやすく記載する」ことが提唱され、裁判でも支持され、また、一部で立法化もされたようですが、効果のほどは、今一つというのが実感です。特に、金銭面のことを記載した部分は、意図的にわかりにくくしてあるのかと、勘ぐりたくなる英文契約書に内容に遭遇することがあります。

わかりにくいとされる英文契約書ですが、そのわかりにくさの一部を形成するリーガルジャーゴン(Legal Jargon)の意味をとらえることで、英文契約書のわかりにくさの一部がある程度解消されるかもしれません。

3. わかりやすい英語への置き換え

多くの場合、リーガルジャーゴン(Legal Jargon)は、わかりやすい英語(Plain English)に置き換えることが可能です。例えば、「hereto」、「hereof」、「herein」、「hereby」は、辞書等では、一般に「これに・この文書に」、「これの・これに関して」、「ここに・この中に」、「これによって」等(いずれも抽象的ですが)と記載されますが、これらは、下記の例のように、置き換えられます。

「 This Agreement constitutes the entire agreement, and supersedes all prior agreements and understandings (both written and oral) of the parties hereto with respect to the subject matter hereof, and cannot be amended or otherwise modified except in writing executed by the parties hereto.」

(本契約は、最終的合意を構成し、本契約の主題に係わる本契約の当事者間のすべての以前の合意と了解(書面と口頭の双方)に優先し、また、本契約の当事者が書面により履行する場合を除き、修正、または他の方法により変更することはできない。)

上記の場合の「hereto」、「hereof」、は、いずれも「the parties hereto=「the parties to this Agreement (本契約の当事者)」および「the subject matter hereof = 「the subject matter of this Agreement.(本契約の主題)」

「This Agreement replaces and supersedes all prior agreements, documents, writings, verbal understandings and rights between the Parties in respect of the Services, and there are no oral or written understandings, representations or commitments of any kind, express or implied, which are not expressly set forth herein.」

上記の場合の「herein」は、「set forth herein=「set forth in this Agreement(本契約に規定する)」

NOW, THEREFORE, in consideration of the promises, and of the mutual covenants hereinafter set forth, and intending to be legally bound hereby, ………………..

上記の場合の「to be legally bound hereby」は、「to be legally bound by this Agreement本契約により法的に拘束される)」

4. 文脈からの判断が求められる

なを、いずれの場合も、前後の文脈から判断する必要があります。(上記は、サンプルのため、前後の文章が存在するという前提に立っています。また、これらの例は、多くの場合、慣用的に用いられます。)

「Legal Jargon」については、以前と比べると最近は、分かりやすく説明された解説書も出版されています。体系的に把握されたい方は、解説書をご覧ください。

参考図書:

法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)、Trend (小学館)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary、英文契約書の書き方 日経文庫、 ビジネス法律英語辞典 日経文庫

英文契約書の時制と厳格で網羅的な表現

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1. 当事者間の権利・義務を規定

英文契約書は、基本的に現在形で記載されています。英文契約書における多くの規定は、当事者間の将来の権利・義務の履行に関するもので、将来におこり得る様々な状況を想定して、これらを「仮定」として列挙し、当事者間の権利・義務を規定するのが一般的な様式です。契約書翻訳 の観点から概説します。

この場合、想定・仮定を述べるために、「If」、「In the event of/that」、「In case」、「In case where」等(他にもいろいろあります。)が使用されます。例えば、

Licensor may resolve this agreement in the event of proven information that:

「ライセンサーは、下記についての証拠となる情報があるときは、本契約を解除することできる。」

In the event of expiration of the present agreement, for any reason whatsoever:

「理由を問わず、本契約が解除された場合は、」

If the other party materially breaches Article 14 or any NDA;

「相手方が、第14条または何らかの機密保持契約に重大な違反を行った場合」

In case the duly authorized officer or officers of the corporation fail to call the special meeting then the special meeting may be called by the stockholder or stockholders or member or members who made the demand, by giving notice in the method provided by the articles of incorporation or bylaws of the corporation.

「本会社の正当に授権された取締役が、臨時総会の招集を履行しない場合、その時点で、臨時総会は、本会社の基本定款または付属定款に規定した方法で行われた通知により、要求を行った株主もしくは社員が召集することができる。」

2. 最近見かける例

  簡単な例ですが、いずれも将来的に想定される状況を記載しています。ただし、日本の契約書によく見られるように、以下の例ように、

Terms and Condition not provided herein shall be separately established based on consultation between the parties.「本契約に定めのない条件については、両当事者間の協議により別途定める。」という条項が記載されている場合も、最近は良く見受けられます。

3. 不確実性の増加

20世紀後半から現在に至る変化の激しい時代、英文契約書の特色の1つである「英文契約書における厳格で網羅的な表現-可能な限りすべての予測される事象を想定する」ことは、なかなか難しくなっているのかもしれません。

参考図書:法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary 特許庁特許情報プラットホーム 

「License Agreement」の翻訳に際しての訳語の一例

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1. 英文契約書の訳語

英・日翻訳全体に言えることですが、英文契約書の翻訳において使用される語句、単語に関して、同じ語句、単語でも複数の訳語が存在する場合が多くあります。例えば、「License」の訳語は、いわゆる「知的財産権」的意味では、名詞としての範囲でも「認可」、「免許」、「許可証」、「ライセンス」、「実施権」、「使用許諾」、「「使用権の許諾」等があり、動詞として範囲では、「許可する」、「認可する」、「免許を与える」、「ライセンスする」、「ライセンスを供与する」等、多々あります。

2. License Agreementを通して見る訳語

知的財産権契約の代表格の1つ「License Agreement」も、「実施権許諾契約」、「ライセンス契約」、「使用契約」、「使用許諾契約」、「許諾契約」等の訳語があります。また、これに関連して、「Licensee」は「実施権者」または「ライセンシー」、「Licenser」には、「実施権許諾者」または「ライセンサー」いずれかの訳語がそれぞれ使用されます。

*「License Agreement」を「License Agreement」ならしめているいくつかの条項があります。中でも重要な条項の1つである「Grant of License」は、「実施権許諾」条項または「ライセンスの許諾」条項として訳されます。この条項では、(1)「ライセンスを供与する実施対象の権利の明示と共に、当該許諾が、(2)「Exclusive(独占的(排他的))」または「Non-exclusive(非独占的(非排他的))」-「Exclusive license(専用実施権)」または「Non-exclusive license(通常実施権)」-、また、(3)当該許諾の対象に関する「Sublicense」―「再実施権」または「サブライセンス」と訳される-の有無等がありますが (これらについては、多くの出版物、解説書等に記載されています)、翻訳の観点からは、いずれの訳語を使用するかを決める必要あります。

3. Grant of Licenseから見た例

この条項「Grant of License」では、
(1)「ライセンスを供与する実施対象の権利の明示と共に、
当該「Grant of License」が、
(2)「Exclusive(独占的(排他的))」である「Exclusive license(専用実施権)」
または「Non-exclusive(非独占的(非排他的))」である「Non-exclusive license(通常実施権)」、また、
(3)当該許諾の対象に関する「Sublicense」―「再実施権」または「サブライセンス」と訳される-の有無等がありますが
(これらについては、多くの出版物、解説書等に記載されています)、翻訳の観点からは、いずれの訳語を使用するかを決める必要あります。

4. 多様な訳語の存在

最近では、内閣府の法令対訳辞書が整備され、この中でNon-exclusive license(通常実施権)とExclusive license(専用実施権)と訳されるように、「License」=実施権として、「License Agreement」は、「実施権契約」とし、「Licensing Agreement」を「実施権許諾契約」とするのが適当かもしれません。

ただし、「License Agreement」=「ライセンス契約」の名称も広く使われ、ことに、長年「License Agreement」=「ライセンス契約」の名称を使用してきたお客様も多く、この場合、契約書本文中でも、「ライセンス」、「ライセンスを供与する」、「ライセンスを許諾する」、「Licensee」=「ライセンシー」、「Licenser」=「ライセンサー」等の表記となることがあります。

また、End User 向けの「Software License AgreementまたはSoftware Licensing Agreement」は、「ソフトウェアライセンス契約」、「ソフトウェア利用許諾契約」または「ソフトウェア使用許諾契約」等の表記が多く使用されていますが、企業ごとに異なります。

そのため、翻訳開始前に、お客様には「License」を「ライセンス」、「実施権」または「使用許諾」等から、どの表記を使用するかを確認させていただいております。なを、「Licensee」、「Licenser」は、日本語化しているようで、多くの場合、「ライセンシー」、「ライセンサー」として使用しています。

参考図書:法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)、Trend (小学館)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary   ビジネス法律英語辞典、 特許庁特許情報プラットホーム日本法令外国語訳データベースシステム、他

英文契約書の用語(Proprietary RightsとIntellectual Property Rights)その1

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1. 拡大する知的財産権の適用範囲

近年、周知のようにライセンス契約において法的保護の対象となる知的財産権の範囲は、拡大傾向にあり、その代表格である、Patents(特許権)に加え、Copy rights(著作権)、Trademarks(商標権)、Designs(意匠権)、Trade Secret (トレードシークレット)等、その他多くの分野に拡大されています。当然、英文契約書にも知的財産権に関する記述が多く含まれています。例えば、、(Patents(特許権)に代表される)「Intellectual Property Rights」(知的財産権)は、定義条項において定義されます(その都度の定義する場合もあります。)。

「Intellectual Property Rights」の他に、近年、知的財産権に関して多く使用される用語に「Proprietary Rights」があります。辞書を見ると「所有権」となっている場合が多く(実際「所有権」なのですが)、この「Proprietary Rights」という用語、「知的財産に関する法律により保護される、ありとあらゆる種類のその物に対する財産的権利(登録済みまたは出願中にかかわらず)を含みます。」

2. 具体的ないくつかの例および訳語について

例えば、

例1)Intellectual Property means all proprietary rights, including patents, copyrights, trade secrets and proprietary information.

「知的財産とは、特許、著作権、トレードシークレットおよび機密情報を含む、すべての所有権を意味する。」

別の例では、

例2)In this agreement, Intellectual Property means statutory and other proprietary rights in respect of copyright and neighboring rights, all rights in relation to inventions (whether patentable or not), patents, plant varieties, registered and unregistered trademarks, registered and unregistered designs, circuit layouts and Confidential Information and other rights arising from intellectual activity in the industrial, scientific, literary or artistic fields but does not include moral rights that are not transferable.

「本契約においては、「知的財産」とは、著作権と隣接権、発明(特許性のある、なしを問わず)、特許、植物種、登録済みと未登録の商標、登録済みと未登録の意匠、回路レイアウトと機密情報に関連するすべての権利、および工業、科学、文学または芸術分野における知的活動から生じたその他の権利に係る制定法上の権利とその他の財産権を意味するが、これには、譲渡可能でない著作者人格権は含まれない。」

(以前は、Patents それ自体を「知的財産権」として定義した契約も見受けられました。)

また、以下のような例もあります。

例3)copyrights, trade secrets, trademarks, patents, inventions, designs, logos and trade dress, moral rights, mask works, rights of personality, publicity, and privacy, rights in customer information, rights (if any) in domain names, and any other intellectual property and proprietary rights;

「著作権、トレードシークレット、商標、特許権、発明、意匠、ロゴとトレードドレス、著作者人格権、マスクワーク、人格権、広報、プライバシー、顧客情報の権利、(該当する場合)ドメイン名に関する権利、および他のすべての知的財産権と所有権」

この場合は「proprietary rights」=「所有権」と訳し、問題はないのですが、すでに述べたように「Proprietary」は、「知的財産に関するあらゆる種類の財産的権利」の意味を含んでいます。その意味では、他に何か適切な訳語、例えば、例3)の場合など、分かりやすさという観点から、文脈により「あらゆる種類の財産的権利」等もあながち誤ってはいないかもしれません。

その他「Proprietary」自体の訳語としては、辞書によっては、形容詞として「独占の」、「専売の」、「占有の」、「特許で保護された」、「著作権のある」などとされます。辞書を見ると、「proprietary name (特許登録名、商標名)」、「proprietary technology(特許技術)」等の例が見られます。

なを、IT関連などでは、「proprietary(プロプライエタリ)」= 製品、システムの仕様、規格、構造等が独占的に保持され、公開されていないものとして、「Open」の反意語として、例えば、「proprietary software(プロプライエタリソフトウェア)」などとして、カタカナ読みで用いられる場合もあります。

英文契約書に記載される知的財産権の内容は多岐にわたり、上記の内容はごく一部に触れただけです。機会があれば、知的財産権に関するその時々のトピックスも吐露上げてみたいと思います。

 

参考図書

  • 法律用語辞典(有斐閣)
  • 英和大辞典(研究社)
  • コンパクト六法(岩波書店)
  • Trend (小学館)
  • Oxford Dictionary of English
  • Collins Consise Dictionary
  • ビジネス法律英語辞典
  • 特許庁特許情報プラットホーム

英文契約書の知的財産権契約

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1. さまざまな知的財産権契約

ここ数年、弊社で扱う契約書翻訳で多いのが、知的財産権契約に関する翻訳です。知的財産権契約の代表格は、ライセンス契約ですが、ライセンス契約の他にも知的財産権契約には様々な種類があります。

ちなみに弊社で扱った知的財産権契約関連の翻訳でも、様々な契約があり、その一部を見ると、例えば、ライセンス契約を含めて、以下のようなものがありました。(知的財産権に関する契約は、下記のほかにも多々あります。)

  • ライセンス契約(ソフトウェア、特許、商標、意匠、ノウハウ、ソフトウェア、  ウェッブサイト、トレードシークレット等に関する契約)
  • 新製品の研究開発に関する受託、委託、共同研究・開発契約等
  • 映画、TV、音楽の放映権、放送権、その他に関する契約
  • 映画、TV、音楽、ゲーム等の事業に対する投資、資本提携に関連する契約
  • 映画、TV、ゲーム等のキャラクターに関する契約(商品化、ライセンス等)
  • 知的財産権の譲渡契約
  • 知的財産権のエスクロウ契約
  • 知的財産権に関する機密保持契約
  • 出版に関する契約

2. 最近の知的財産権契約

その他、ブランドの使用にかかわる契約、サービス契約、知的財産の産学共同開発など、近年における知的財産権の強化、保護の傾向が、弊社で扱う契約書翻訳の種類・内容にも表れているかもしれません。例えば、近年、販売店契約、代理店契約、業務委託契約等、直接、知的財産権にかかわらない契約でも、知的財産権の保護に関する記載がより詳細になり、また、知的財産権の保護に関するいくつかの条項が設けられています。

知的財産権に関連する契約分野は、一般に、他の契約分野と比較すると複雑かつ多彩な内容から構成される場合も多く見られ、また、その時々の最新の技術、製品等を扱うもの等、翻訳に際しても、より一層の注意が必要とされます。

参考図書:法律用語辞典(有斐閣)、英和大辞典(研究社) コンパクト六法(岩波書店)、Trend (小学館)、Oxford Dictionary of English、Collins Consise Dictionary   ビジネス法律英語辞典、特許庁 特許情報プラットホーム

 

口頭排除の原則(Parol evidence rule)と最終性条項(Entire Agreement)

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1. 書面重視の考え方

英文契約書では、口頭排除の原則(Parol evidence rule)、最終性条項または完全なる合意といわれる(Entire Agreement)における書面重視の考え方、習慣等から、一般に、その内容は厳格かつ網羅的になる傾向(考え得るすべての事項を可能な限り取り決める)があります。契約書翻訳の視点から簡単に見てみます。

そのため、契約書作成に至るまでの文書、口頭における当事者間の了解事項は、すべて契約書に集約され、当事者間の最終的な合意を記載した唯一ものとして契約書が作成されます。

2. 書面重視の考え方の一例

「Entire Agreement」に関する記載の様式は、様々ですが、以下は、基本的な一例です。

This Agreement constitutes the entire agreement between the parties with respect to the subject matter hereof.
(本契約は、その主題に関して両当事者間の最終的合意を形成する。)

また、以下の例文は、口頭排除の原則(Parol evidence ruleを確認する記載のある1例です。

This Agreement constitutes the entire agreement between the parties pertaining to the subject matter hereof, and supersedes in its entirety any prior or oral agreements between the parties.

(本契約は、本契約の主題に関して、両当事者間の最終的合意ならびに了解を形成し、あらゆる種類の、口頭もしくは書面によるいかなる表明、条件、了解もしくは合意も、本契約に明示的に規定される以外、両当事者を拘束することはない。)

3. 当事者間の合意による変更

当然、これを変更する場合、当事者間の書面による合意が必要です。その場合、1例として通常、下記のような内容が追加されます。

No modification of this Agreement shall be binding unless executed in writing by both parties.

(本契約のいかなる変更も、両当事者の署名のある書面によりなされない限り、拘束力を有しない。)

上記については、各契約により、また起草者により書き方は様々ですが、基本的な考え方は同じです。

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